April 17, 1997 Vol. 336 No. 16
セレウス菌嘔吐毒素による劇症肝不全
FULMINANT LIVER FAILURE IN ASSOCIATION WITH THE EMETIC TOXIN OF BACILLUS CEREUS
H. MAHLER AND OTHERS
17 歳の少年とその父親が,4 日前に調理されたペストパスタを食べた後に急性胃腸炎を起した.2 日以内に少年は劇症肝不全と横紋筋融解症を発症して死亡した.父親は高ビリルビン血症と横紋筋融解症を発症したが回復した.われわれはこれらの疾患原因を調査した.
従来の方法によって菌を単離して特徴付けを行い,細菌毒素を免疫法および細胞培養技法によって定量した.種々の基質の酸化速度に及ぼす単離毒素の効果をラット肝ミトコンドリアで分析した.
少年の肝臓の剖検から,散在性微細小胞脂肪症と中心部壊死が明らかになり,このことは,ミトコンドリア毒素により肝ミトコンドリアのβ酸化が損なわれたことを示唆した.重金属,ハロゲン化化合物,肝毒性薬,またはブドウ球菌腸内毒素を摂取した証拠を認めなかった.しかし,食事の再加熱に用いた鍋の残留物と少年の肝臓および胆汁中の双方に,高濃度のセレウス菌(Bacillus cereus)嘔吐毒素が検出された.腸内容物と鍋の残留物を培養したところ,セレウス菌が増殖した.セレウス菌の培養から単離された嘔吐毒素は,ミトコンドリア毒素であることが判明した.
劇症肝不全は,セレウス菌嘔吐毒素に汚染された食物摂取後に発症した.この毒素は肝ミトコンドリアの脂肪酸酸化を阻害し,これがこの患者に肝不全を引き起したことを示している.