December 4, 1997 Vol. 337 No. 23
痴呆発生率に関する異なる診断基準の効果
THE EFFECT OF DIFFERENT DIAGNOSTIC CRITERIA ON THE PREVALENCE OF DEMENTIA
T. ERKINJUNTTI, T. ØSTBYE, R. STEENHUIS, AND V. HACHINSKI
痴呆の診断に関しては広く用いられている一連の基準がいくつかあるが,それらの一致の程度や痴呆発生推定値に及ぼす効果に関してはほとんど知られていない.
われわれは,健康と加齢に関するカナダ試験に登録した 65 歳以上の男女 1,879 人を調べ,一般的に用いられる六つの分類システムに従って,痴呆と診断された人の比率を計算した:アメリカ精神医学会の精神疾患診断統計マニュアル(DSM),DSM 第 3 版(DSM-III),DSM 第 3 版改訂版(DSM-III-R),DSM 第 4 版(DSM-IV),世界保健機構の国際疾患分類(ICD)第 9 改訂(ICD-9)および第 10 改訂(ICD-10),そして高齢者のケンブリッジ精神疾患試験(CAMDEX).分類スキーム間の一致の程度と,診断の一致または不一致を決定するさまざまな要因の重要性について検討した.
痴呆症被験者の比率は,ICD-10 を用いた場合の 3.1%から DSM-III 基準を用いた場合の 29.1%まで変化した.六つの分類システムは,異なる被験者群を痴呆と分類し;六つすべてのシステムによって痴呆と診断されたのは被験者 20 人にすぎなかった.さまざまなシステムに基づく分類は,患者の年齢,性別,教育水準,または施設入所状況による差はほとんどなかった.DSM-III と ICD-10 のあいだに診断の相違をもっとも多く引き起す要因は,長期記憶,実行機能,社会活動,および症状の持続期間であった.
一般に用いられる診断基準は,痴呆症と分類される被験者の数が 10 倍異なりうる.そのような相違は,多くの高齢者の自動車の運転,意志決定,および金銭問題を処理する権利のみならず,研究および治療に対して重大な意味をもつ.