April 20, 2000 Vol. 342 No. 16
救急部門における急性心筋虚血の誤診
Missed Diagnoses of Acute Cardiac Ischemia in the Emergency Department
J.H. POPE AND OTHERS
急性心筋梗塞や不安定狭心症患者の誤診による救急部門からの退院は,悲惨な結末に終ることがある.そこで,われわれは,急性心筋虚血の患者を入院させないという事態が起る発生率,それに関連した要因,およびその臨床転帰について検討した.
米国の 10 病院の救急部門に,急性心筋虚血を疑わせるような胸痛や他の症状を訴えて来院してきたすべての患者を対象として実施された多施設共同プロスペクティブ臨床試験で得られた臨床データを用いて解析した.
10,689 例の患者のうち,最終的に急性心筋虚血の診断基準に合致した患者は 17%(急性心筋梗塞が 8%,不安定狭心症が 9%)で,安定型狭心症が 6%,これら以外の心疾患が 21%,残りの 55%には心疾患は認められなかった.救急部門から誤って退院させられた患者は,急性心筋梗塞の 889 例の患者では 19 例(2.1%)であった(95%信頼区間,1.1~3.1%);不安定狭心症の 966 例の患者では,22 例(2.3%)が誤って退院させられていた(95%信頼区間,1.3~3.2%).多変量解析から,救急部門にきた急性心筋虚血の患者のうち,以下のような患者は入院することができない可能性が高いことが示された.55 歳未満の女性患者(退院させられるオッズ比,6.7;95%信頼区間,1.4~32.5),白人でない患者(オッズ比,2.2;1.1~4.3),主症状が息切れの患者(オッズ比,2.7;1.1~6.5),あるいは心電図が正常または診断目的以外の心電図検査が実施されていた患者(オッズ比,3.3;1.7~6.3).また,急性心筋梗塞の患者では,白人でない患者(退院させられるオッズ比,4.5;95%信頼区間,1.8~11.8)あるいは心電図が正常または診断目的以外の心電図検査が実施されていた患者(オッズ比,7.7;95%信頼区間,2.9~20.2)の場合に,入院することができない可能性が高かった.入院した患者と比較したときの入院できなかった患者のリスク補正死亡率比は,急性心筋梗塞の患者では 1.9(95%信頼区間,0.7~5.2),不安定狭心症の患者では 1.7(95%信頼区間,0.2~17.0)であった.
救急部門に来院してきた急性心筋梗塞や不安定狭心症の患者では,入院できなかった患者の割合は少ないものの,このような患者が退院させられることによって死亡率が上昇する可能性がある.さらに,このような患者を入院させられなかったことには,人種,性別,および心筋虚血の典型的特徴の欠如との関連が認められる.したがって,誤診を減らす努力が必要である.