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August 31, 2000 Vol. 343 No. 9

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重症の無症候性大動脈弁狭窄症における転帰の予測因子
Predictors of Outcome in Severe, Asymptomatic Aortic Stenosis

R. ROSENHEK AND OTHERS

背景

症状の発現していない重症の大動脈弁狭窄症の患者に人工弁置換術を実施すべきかどうかは,見解が一致していない.そこで,われわれは,この転帰の予測因子を同定するために,このような病態の大動脈弁狭窄症の自然史について研究した.

方 法

1994 年の 1 年間に,無症候性の重症大動脈弁狭窄症であることが確認された連続した 128 例の患者を同定した(女性 59 例,男性 69 例;平均 [±SD] 年齢,60±18 歳;大動脈弁部のジェット血流速度,5.0±0.6 m/秒).これらの患者を対象として,前向き追跡調査を 1998 年まで行った.

結 果

今回の調査追跡では,126 例(98%)の情報を,平均で 22±18 ヵ月間にわたって入手することができた.エンドポイントは死亡(8 例)または症状発現によって余儀なくされた人工弁置換術(59 例)と定義したが,このときの無イベント生存率は,追跡調査 1 年目の時点では 67±5%,2 年目の時点では 56±5%,4 年目の時点では 33±5%であった.心疾患による 6 件の死亡のうちの 5 件は,症状の発現が先行した.多変量解析の結果では,大動脈弁の石灰化の程度だけが転帰の独立した予測因子であり,年齢,性別,および冠動脈疾患と高血圧症,糖尿病,高コレステロール血症の有無は予測因子にはなっていなかった.すなわち,大動脈弁の石灰化が認められなかった患者や軽度の患者の無イベント生存率は,1 年目の時点では 92±5%,2 年目の時点では 84±8%,4 年目の時点では 75±9%であったのに対して,この石灰化が中等度または高度の患者の無イベント生存率は,それぞれ 60±6%,47±6%,および 20±5%であった.大動脈弁部のジェット血流速度によって表した狭窄の進行率は,心イベントが発現した患者(1 年間当り 0.45±0.38 m/秒の上昇)が,心イベントが発現したことのない患者(1 年間当り 0.14±0.18 m/秒の上昇,p<0.001)よりも有意に高く,この狭窄の進行率は有用な予後情報を提供していた.大動脈弁の石灰化が中等度あるいは高度で,大動脈弁部のジェット血流速度が 1 年以内に 0.3 m/秒以上上昇した患者では,この上昇が観察された 2 年以内に,その 79%が手術を受けるか,あるいは死亡した.

結 論

大動脈弁狭窄症の無症状の患者では,手術を症状が発現するまで延期しても比較的安全であると思われる.しかしながら,その転帰は患者によって大きく異なる.中等度または高度の大動脈弁の石灰化の存在と,大動脈弁部のジェット血流速度の急速な上昇により,予後が非常に不良な患者を鑑別できる.したがって,これらの患者に対しては,症状が発現するまで手術を待機するよりは,むしろ早期に人工弁置換術を実施することを検討すべきである.

英文アブストラクト ( N Engl J Med 2000; 343 : 611 - 7. )