ヒト心筋細胞が心筋梗塞後に分裂することを示す証拠
Evidence That Human Cardiac Myocytes Divide after Myocardial Infarction
A.P. BELTRAMI AND OTHERS
心筋梗塞の結果として生じる心臓の瘢痕化は,心臓が分裂能のない筋細胞で構成されていることを示す根拠として解釈されてきた.しかし,近年の観察結果から,成人の心臓で心筋細胞が増殖していることを示すような証拠が得られている.われわれは,ヒトの心筋梗塞後の心筋細胞における有糸分裂の程度について検討した.
心筋梗塞後 4~12 日目に死亡した 13 例の患者から,その梗塞縁と梗塞から離れた心筋層の領域の検体を入手した.対照には 10 個の正常な心臓を使用した.細胞周期に入って細胞分裂の準備段階にあった心筋細胞を,細胞が分裂にかかわっている核抗原 Ki-67 を標識することによって測定した.有糸分裂が進行中の心筋細胞核の分画を確定して,分裂指数(分裂期以外の核の個数に対する分裂期の核の個数の比)を算出した.また,分裂紡錘体,収縮環,核分裂,および細胞質分裂の有無についても記録した.
Ki-67 の発現は,梗塞起った心臓では,梗塞に隣接した領域の心筋細胞の核の 4%,および梗塞から離れた領域の心筋細胞の核の 1%に検出された.心筋細胞が細胞周期に再び入った結果として,それぞれで 0.08%および 0.03%の分裂指数が得られた.細胞分裂に特徴的なイベント ─分裂紡錘体の形成,収縮環の形成,核分裂,および細胞質分裂─ も確認できた;これらの特徴は,心筋梗塞後に心筋細胞の増殖が起っていたことを証明するものであった.
この結果は,成人の心臓が分裂を終えた臓器であるという定説への挑戦であり,このような心筋細胞の再生が心筋層の筋量を増加させる一因になっている可能性を提起している.