前立腺癌の発生に対するフィナステリドの影響
The Influence of Finasteride on the Development of Prostate Cancer
I.M. Thompson and Others
アンドロゲンは,前立腺癌の発生に関与している.5α還元酵素阻害薬であるフィナステリドは,テストステロンがジヒドロテストステロン(前立腺の主なアンドロゲン)に変換されるのを阻害して,前立腺癌のリスクを減少させる可能性がある.
前立腺癌予防試験(Prostate Cancer Prevention Trial)において,直腸指診で正常所見を示し,前立腺特異抗原(PSA)値が 3.0 ng/mL 以下であった 55 歳以上の男性 18,882 例を,7 年間フィナステリド(5 mg/日)を投与する群と,プラセボを投与する群に無作為に割り付けた.毎年測定する PSA 値(フィナステリドの影響を補正)が 4.0 ng/mL を超えるか,直腸指診で異常が認められた場合に,前立腺生検を勧めた.参加者の 60%が,試験期間に前立腺癌と診断されるか,試験終了時に生検を受けることが予測された.主要エンドポイントは,研究 7 年間における前立腺癌の有病率とした.
前立腺癌は,最終解析のデータのあったフィナステリド群の男性 4,368 例中 803 例(18.4%)と,プラセボ群の男性 4,692 例中 1,147 例(24.4%)に認められ,有病率は 7 年間で 24.8%減少した(95%信頼区間 18.6~30.6%;P<0.001).Gleason 分類で 7,8,9,10 の腫瘍は,フィナステリド群(757 個の腫瘍中 280 個 [37.0%],すなわち最終解析対象 4,368 例の 6.4%)のほうが,プラセボ群(1,068 個の腫瘍中 237 個 [22.2%],群間の比較の P<0.001;すなわち最終解析対象 4,692 例の 5.1%,群間の比較の P=0.005)よりも多かった.性機能への副作用はフィナステリド投与男性で多くみられたが,泌尿器症状はプラセボ投与男性でより多くみられた.
フィナステリドは,前立腺癌の発生を予防あるいは遅延させるが,こうした利益の可能性や泌尿器障害のリスクの減少は,性機能に関する副作用や悪性度の高い前立腺癌のリスク増加と比較検討されるべきである.
(本論文は 2003 年 6 月 24 日 www.nejm.org に発表された.)