メトカチノン常用者におけるパーキンソン症候群とマンガンの役割
A Parkinsonian Syndrome in Methcathinone Users and the Role of Manganese
A. Stepens and Others
東ヨーロッパとロシアのメトカチノン(methcathinone)(エフェドロン [ephedrone])静脈内注射の常用者には,特徴的な錐体外路症候群が認められる.
錐体外路症状があり,平均(±SD)6.7±5.1 年間メトカチノンを注射していたラトビアの成人 23 例を調査した.メトカチノンは,エフェドリンまたはプソイドエフェドリン(pseudoephedrine)の過マンガン酸カリウム酸化により,家内で製造されていた.患者はすべて C 型肝炎ウイルス陽性で,20 例はヒト免疫不全ウイルス(HIV)陽性でもあった.
患者の報告によると,メトカチノン使用後平均 5.8±4.5 年で,最初の神経症状(歩行障害が 20 例,発声不全が 3 例)が発症した.神経学的評価を行った時点で,23 例全例に歩行障害と後方への歩行困難が認められた.11 例は毎日転倒し,うち 1 例は車椅子を使用していた.21 例には歩行障害に加えて会話時の発声不全がみられ,うち 1 例は無言であった.認知機能の低下を報告した患者はいなかった.MRI の T1 強調画像では,メトカチノンを現在使用中の 10 例全例に,淡蒼球と,黒質および無名質に対称性の高信号域がみられた.過去にメトカチノンを使用していた 13 例(最終使用から 2~6 年が経過)では,MRI 信号の変化の度合いがより小さいことが認められた.全血マンガン濃度(正常値<209 nmol/L)は,メトカチノンを現在使用中の患者では平均 831 nmol/L(201~2,102 nmol/L),過去に使用していた患者では 346 nmol/L(114~727 nmol/L)であった.患者がメトカチノンの使用を中止したあとも,神経障害は消失しなかった.
メトカチノン常用者には,特徴的な錐体外路症候群,基底核の MRI 信号の変化,血中マンガン濃度の上昇がみられた.このことから,メトカチノン溶液に含まれるマンガンにより,持続的な神経障害が生じることが示唆される.