November 13, 2008 Vol. 359 No. 20
急性肺損傷に対する食道内圧に基づく人工換気
Mechanical Ventilation Guided by Esophageal Pressure in Acute Lung Injury
D. Talmor and Others
急性肺損傷・急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)の患者の生存は,低 1 回換気量による人工換気と呼気終末陽圧(positive end-expiratory pressure:PEEP)を用いることで改善されてきたが,至適な PEEP 圧を決定することは困難であった.この予備的研究では,食道バルーンカテーテルを用いて肺内外圧差を推定した.推論では,胸腔内圧を測定することで,その精度に技術的限界はあっても,繰り返される肺胞の虚脱や再膨張に起因する肺損傷を防ぎながら酸素化を維持できる PEEP を求めることができる.
急性肺損傷または ARDS の患者を,食道内圧の測定値に基づき PEEP を調整した人工換気を行う群(食道内圧群)と,ARDS ネットワークの推奨する標準治療に基づき PEEP を調整した人工換気を行う群(対照群)のいずれかに無作為に割り付けた.主要エンドポイントは酸素化の改善とした.副次的エンドポイントは,呼吸器系コンプライアンス,患者の転帰などとした.
中止基準に達したことから,試験は 61 例を登録後に中止された.72 時間後の吸入気酸素濃度に対する動脈酸素分圧の比は,食道内圧群のほうが対照群に比べて 88 mmHg 高かった(95%信頼区間 78.1~98.3,P=0.002).この効果は追跡調査期間中持続していた(24,48,72 時間後,反復測定分散分析による P=0.001).食道内圧群では,24,48,72 時間後の呼吸器系コンプライアンスも有意に改善していた(反復測定分散分析による P=0.01).
食道内圧をもとに肺内外圧差を推定して人工呼吸器を調整することで,現行の標準治療に比べて,酸素化と呼吸器系コンプライアンスが有意に改善した.このアプローチを広く採用すべきかどうかを検討するためには,多施設共同臨床試験を行う必要がある.(ClinicalTrials.gov 番号:NCT00127491)
本論文(10.1056/NEJMoa0708638)は,2008 年 11 月 11 日に www.nejm.org で発表された.