転倒による外傷を減少させるためのエビデンス普及の効果
Effect of Dissemination of Evidence in Reducing Injuries from Falls
M.E. Tinetti and Others
転倒は,高齢者でよくみられる病的状態である.転倒防止の有効策は明らかにされているが,十分に活用されていない.
非無作為化デザインを用いて,米国コネチカット州において医師が臨床診療を変更するよう介入を受けた地域(介入地域)と,介入を受けなかった地域(通常医療地域)とで,転倒による外傷の発生率を比較した.介入では,プライマリケア医と在宅看護・外来リハビリテーション・高齢者施設に携わる職員に対して,有効なリスク評価や転倒防止策(薬物の減量,バランス訓練・歩行訓練など)を採用することを勧めた.転帰は,転倒に関連した重大な外傷(大腿骨頸部やその他の部位の骨折,頭部損傷,関節脱臼)の発生率と,70 歳以上の人における 1,000 人年あたりの転倒に関連した医療サービスの利用とした.介入は 2001~04 年に行われ,評価は 2004~06 年に行われた.
介入前の時点で,転倒に関連した重大な外傷の補正発生率(1,000 人年あたり)は,通常医療地域で 31.2,介入地域で 31.9 であった.評価期間中の補正発生率は,それぞれ 31.4,28.6 であった(補正率比 0.91,95%ベイズ信用区間 0.88~0.94).介入前の期間と評価期間のあいだで,転倒に関連した医療利用率は,通常医療地域では 1,000 人年あたり 68.1 から 83.3 に増加し,介入地域では 1,000 人年あたり 70.7 から 74.2 に増加した(補正率比 0.89,95%ベイズ信用区間 0.86~0.92).臨床医が介入のための訪問を受けた割合は,62%(プライマリケア施設 212 ヵ所中 131 ヵ所)から 100%(在宅介護事業所 26 ヵ所中 26 ヵ所)と幅があった.
転倒防止に関するエビデンスの普及は,臨床診療を変更させる介入と組み合わせれば,高齢者における転倒に関連した外傷を減少させる可能性がある.