January 8, 2009 Vol. 360 No. 2
エベレスト登山者における動脈血ガスと酸素含有量
Arterial Blood Gases and Oxygen Content in Climbers on Mount Everest
M.P.W. Grocott and Others
エベレスト(8,848 m [29,029 フィート])登頂者が曝される低圧・低酸素環境は,ヒトの許容限度に近い.われわれは,エベレスト山で外気呼吸する登山者の動脈血ガスを直接測定した.
10 人の登山者において,エベレスト山頂への登山中と下山中に動脈血を採取した.動脈血酸素分圧(PaO2)と動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2),pH,ヘモグロビン濃度,乳酸濃度を測定した.動脈血酸素飽和度(SaO2),重炭酸塩濃度,塩基過剰,肺胞気動脈血酸素分圧較差を算出した.
PaO2 は標高が高くなるにつれて低下したが,SaO2 は比較的安定していた.登山者が標高 7,100 m(23,294 フィート)に到達前までヘモグロビン濃度は上昇し,動脈血酸素含有量は標高ゼロ地点レベル以上の値を維持していた.気圧が 272 mmHg(36.3 kPa)となる標高 8,400 m(27,559 フィート)で採取した 4 検体について,外気呼吸する対象者の平均 PaO2 は 24.6 mmHg(3.28 kPa),範囲は 19.1~29.5 mmHg(2.55~3.93 kPa)であった.平均 PaCO2 は 13.3 mmHg(1.77 kPa),範囲は 10.3~15.7 mmHg(1.37~2.09 kPa)であった.標高 8,400 m では,7,100 m の地点より平均動脈酸素含有量が 26%少なかった(145.8 mL/L 対 197.1 mL/L).算出した平均肺胞気動脈血酸素分圧較差は 5.4 mmHg(0.72 kPa)であった.
極度の低酸素環境下にある対象者にみられる肺胞気動脈血酸素分圧較差の上昇は,ある種の無症状高地肺水腫,または肺拡散能の機能的限界を示している可能性がある.