January 29, 2009 Vol. 360 No. 5
アデノシンデアミナーゼ欠損症による免疫不全の遺伝子治療
Gene Therapy for Immunodeficiency Due to Adenosine Deaminase Deficiency
A. Aiuti and Others
アデノシンデアミナーゼ(ADA)の欠損が原因の,致死的なプリン代謝異常と免疫不全を示す重症複合免疫不全症(SCID)に対する遺伝子治療の長期転帰を検討した.
HLA 一致同胞ドナーのいない,ADA 欠損症による SCID の患児 10 例を対象に,ブスルファンによる骨髄非破壊的前処置後,ADA 遺伝子を含むレトロウイルスベクターで形質導入した自己由来の CD34+骨髄細胞を移植した.細胞移植後は酵素補充療法を行わなかった.
追跡期間中央値 4.0(1.8~8.0)年の現在,全例が生存している.形質導入した造血幹細胞の生着は安定しており,ADA を含む骨髄系細胞(1 年後,骨髄細胞中に平均 3.5~8.9%)とリンパ系細胞(末梢血中に平均 52.4~88.0%)に分化した.8 例は酵素補充療法を必要とせず,血液細胞の ADA の発現が持続し,プリン代謝物の解毒障害の徴候はみられなかった.9 例では免疫の再構築が認められ,T 細胞数の増加(T 細胞数の 3 年後の中央値 1.07×109/L)と T 細胞機能の正常化がみられた.免疫グロブリン補充療法を中止した 5 例で,ワクチンまたはウイルス抗原への曝露後に抗原特異的抗体反応が誘発された.感染に対する効果的な予防と身体発育の改善により,通常の生活が可能となった.重篤な有害事象として,遷延性好中球減少症(2 例),高血圧(1 例),中心静脈カテーテル関連感染(2 例),EB ウイルスの再活性化(1 例),自己免疫性肝炎(1 例)などがあった.
ADA 欠損症患児の SCID に対して,強度の低い前処置を併用する遺伝子治療は安全かつ有効な治療法である.(ClinicalTrials.gov 番号:NCT00598481,NCT00599781)