September 10, 2009 Vol. 361 No. 11
急性冠症候群患者におけるチカグレロルとクロピドグレルの比較
Ticagrelor versus Clopidogrel in Patients with Acute Coronary Syndromes
L. Wallentin and Others
チカグレロル(ticagrelor)は,アデノシン二リン酸受容体 P2Y12 に可逆的・直接的に作用する経口阻害薬であり,クロピドグレルと比較して,作用発現が早く血小板抑制効果も顕著である.
多施設共同二重盲検無作為化試験において,ST 上昇の有無を問わず急性冠症候群で入院した患者 18,624 例を対象に,チカグレロル(初期投与量 180 mg,その後 90 mg を 1 日 2 回)とクロピドグレル(初期投与量 300~600 mg,その後 75 mg を 1 日 1 回)の心血管イベント予防効果を比較検討した.
12 ヵ月の時点で,主要エンドポイント(血管系の原因による死亡,心筋梗塞,脳卒中から成る複合エンドポイント)の発生率は,チカグレロル群 9.8%に対し,クロピドグレル群 11.7%であった(ハザード比 0.84,95%信頼区間 [CI] 0.77~0.92,P<0.001).副次的エンドポイントについて事前に規定した階層的検定では,その他の複合エンドポイントの発生率にも有意差が認められたほか,心筋梗塞単独(チカグレロル群 5.8% 対 クロピドグレル群 6.9%,P=0.005),血管系の原因による死亡(4.0% 対 5.1%,P=0.001)にも有意差が認められたが,脳卒中単独については認められなかった(1.5% 対 1.3%,P=0.22).あらゆる原因による死亡率もチカグレロル群のほうが低かった(4.5% 対 クロピドグレル群 5.9%,P<0.001).重大な出血の発生率には,チカグレロル群とクロピドグレル群のあいだで有意差は認められなかったが(それぞれ 11.6%,11.2%;P=0.43),チカグレロル投与は冠動脈バイパス術に関連しない重大な出血の発生率が高くなることと関連しており(4.5% 対 3.8%,P=0.03),チカグレロル群では,クロピドグレル群と比較して致死的な頭蓋内出血例は多かったが,その他の致死的出血例は少なかった.
ST 上昇の有無を問わず急性冠症候群を発症した患者において,チカグレロルによる治療は,クロピドグレルと比較して,血管系の原因による死亡,心筋梗塞,脳卒中の発生率を有意に低下させた.チカグレロル投与により,重大な出血の発生率は上昇しなかったが,手術に関連しない出血の発生率は上昇した.(ClinicalTrials.gov 番号:NCT00391872)