アルツハイマー病のリスクに関する APOE 遺伝子型の開示
Disclosure of APOE Genotype for Risk of Alzheimer's Disease
R.C. Green and Others
アポリポ蛋白 E(APOE)の遺伝子型からアルツハイマー病のリスクに関する情報が得られるが,患者とその家族の遺伝子型決定は行わないよう推奨されてきた.われわれは,前向き無作為化比較試験において,本人に APOE 遺伝子型情報を知らせることの影響を検討した.
アルツハイマー病の親をもつ無症状の成人 162 例を,APOE 遺伝子型決定の結果を本人に知らせる群(開示群)と知らせない群(非開示群)に無作為に割り付けた.開示または非開示後 6 週,6 ヵ月,1 年の時点で,不安,抑うつ,検査関連ストレスの各症状を評価した.
不安(開示群 4.5,非開示群 4.4,P=0.84),抑うつ(それぞれ 8.8,8.7,P=0.98),検査関連ストレス(それぞれ 6.9,7.5,P=0.61)のスコアの経時的平均変化に,両群間で有意差は認められなかった.非開示群と,開示群で APOE ε 4 対立遺伝子(アルツハイマー病のリスク増加と関連)を保有しているサブグループの二次的比較評価でも,有意差は認められなかった.しかし,ε 4 陰性サブグループの検査関連ストレスは,ε 4 陽性サブグループよりも有意に低かった(P=0.01).心理学的評価に臨床的に意義のある変化がみられた被験者数は,非開示群と ε 4 陽性・陰性サブグループで同等であった.不安と抑うつのベースラインスコアは,これらの評価項目の開示後のスコアと強く関連していた(両比較について P<0.001).
アルツハイマー病の親をもつ成人に,APOE 遺伝子型決定の結果を開示することは,短期的には重大な心理的リスクとならなかった.APOE ε 4 が陰性であることを知らされた人では,検査関連ストレスの低下が認められた.遺伝子検査前の情緒障害の程度が大きかった人は,開示後も情緒障害を示す傾向が強かった.(ClinicalTrials.gov 番号:NCT00571025)