August 13, 2009 Vol. 361 No. 7
H1N1 インフルエンザの流行と同時期に発生した重症呼吸器疾患
Severe Respiratory Disease Concurrent with the Circulation of H1N1 Influenza
G. Chowell and Others
2009 年春,メキシコで重症肺炎の集団発生が報告された.同時期に,ブタインフルエンザとして広く知られる,ブタ由来の新型インフルエンザ A(H1N1)ウイルス(S-OIV)が分離された.1957 年のパンデミック以来,インフルエンザ A(H1N1)亜型ウイルスが流行することはほとんどなかった.ルーチンの診断検査が存在しない中,流行性肺炎を分析することにより,このウイルスに起因する重症疾患の危険因子に関する情報や,ウイルス制圧に向けての見通しが得られる可能性がある.
2009 年 3 月 24 日~4 月 29 日に,入院 821 件と死亡 100 件を含む計 2,155 例の重症肺炎が,メキシコ保健省に報告された.この期間に国立疫学基準検査所(National Epidemiological Reference Laboratory)に提出された 8,817 例の鼻咽頭検体のうち,2,582 例が S-OIV 陽性であった.患者の死亡率と罹患率の年齢分布の変化を検討する目的で,今回重症肺炎として報告された患者の年齢分布を,過去のインフルエンザ流行期間と比較した.
5~59 歳の患者が死亡数,重症肺炎症例数に占める割合は,今回の調査期間ではそれぞれ 87%,71%であったのに対し,対照期間では平均 17%,32%であった.今回の流行の特徴は,新型インフルエンザウイルスが,第一波として季節はずれの時期に若年集団を襲ったという点で,過去のパンデミックと類似している.
今回のインフルエンザパンデミックでは,初期段階で重症肺炎の発症率が急上昇し,患者の年齢分布に変化がみられた.これは過去のパンデミックを想起させるものであり,1957 年のパンデミック以前に出生し小児期に H1N1 株に曝露された人々が,今回のパンデミックで相対的に防御されたことを示している.今回の知見は,医療資源やワクチンの供給に限界がある場合には,予防努力を若年集団に向けることの正当性を示唆している.
本論文(10.1056/NEJMoa0904023)は,2009 年 6 月 29 日に NEJM.org で発表された.