March 24, 2011 Vol. 364 No. 12
米国の 2 つのコホートにおける水銀曝露と心血管疾患リスク
Mercury Exposure and Risk of Cardiovascular Disease in Two U.S. Cohorts
D. Mozaffarian and Others
魚の摂取によるメチル水銀への曝露は,心血管疾患リスクを上昇させる可能性があることが示されている.しかし先行研究のエビデンスはまだ曖昧である.魚やセレンの摂取による有益な効果により,そのような影響が変化する可能性もある.
足の爪が保存されている米国の 2 つのコホートの対象者(男性 51,529 例,女性 121,700 例)において,心血管疾患(冠動脈心疾患と脳卒中)の新規診断例 3,427 例を前向きに同定し,これらの症例を年齢,性別,人種,喫煙状況に基づくリスク集団から抽出した対照とマッチさせた.中性子放射化分析法により足の爪の水銀とセレンの濃度を測定した.妥当性の検証されている質問票によりその他の人口統計学的特性,心血管危険因子,魚の摂取量,生活習慣を評価した.水銀曝露量と心血管疾患の新規診断との関連は,条件付きロジスティック回帰を用いて検討した.
足の爪の水銀濃度中央値は,症例では 0.23 μg/g(十分位範囲 0.06~0.94),対照では 0.25 μg/g(十分位範囲 0.07~0.97)であった.多変量解析では,水銀曝露量が多いほど心血管リスクが高いということはなかった.水銀曝露量の第 5 五分位群と第 1 五分位群との比較で,相対リスクは冠動脈心疾患 0.85(95%信頼区間 [CI] 0.69~1.04,傾向性の P=0.10),脳卒中 0.84(95% CI 0.62~1.14,傾向性の P=0.27),全心血管疾患 0.85(95% CI 0.72~1.01,傾向性の P=0.06)であった.結果は,セレン濃度が低い被験者や全体的な魚の摂取量が少ない被験者の解析,追加的に行った複数の感度分析でも同様であった.
米国成人においてこの研究で評価されたレベルの曝露量では,冠動脈心疾患,脳卒中,全心血管疾患に,水銀曝露が臨床的に意義のある有害作用を及ぼすというエビデンスは認められなかった.(米国国立衛生研究所から研究助成を受けた.)