MYO1E 変異と小児期家族性巣状分節性糸球体硬化症
MYO1E Mutations and Childhood Familial Focal Segmental Glomerulosclerosis
C. Mele and Others
巣状分節性糸球体硬化症は,ネフローゼ症候群として現れる腎臓病の一つである.この疾患はグルココルチコイド療法に抵抗性を示す場合が多く,患者の 50~70%が末期腎不全に進行する.遺伝学的研究によって,家族性巣状分節性糸球体硬化症は,糸球体濾過障壁の主要な構成要素である足細胞の疾患であることが示されているが,一次性巣状分節性糸球体硬化症症例の半数以上は分子的原因が不明であり,有効な治療法は明らかにされていない.
常染色体劣性巣状分節性糸球体硬化症の 1 家族(指標家族)で全ゲノム連鎖解析を行い,連鎖陽性領域のハイスループット塩基配列決定を行った.新たに発見された遺伝子について,血縁関係のない巣状分節性糸球体硬化症患者 52 例で塩基配列決定を行った.ヒト腎生検標本と培養足細胞において免疫組織化学検査を行った.同定された変異の機能的転帰を明らかにするため in vitro で発現解析を行った.
MYO1E で 2 個の変異(A159P,Y695X)が同定された.MYO1E は,非筋 I 型ミオシンの一種であるミオシン 1E(Myo1E)をコードしている.MYO1E の変異は,独立した 2 家系(指標家族および家族 2)の巣状分節性糸球体硬化症で分離された.患者はこれらの変異のホモ接合体を有し,グルココルチコイド療法に反応を示さなかった.電子顕微鏡検査により,糸球体基底膜の肥厚と崩壊が認められた.対照のヒト in vivo 腎生検標本と in vitro 糸球体足細胞では Myo1E の発現は正常であった.トランスフェクション実験により,A159P-Myo1E 変異体の異常な細胞内局在と機能が明らかになった.また Y695X 変異は,Myo1E のカルモジュリン結合と尾部ドメインの喪失をもたらす.
MYO1E 変異は,小児期に発症するグルココルチコイド抵抗性の巣状分節性糸球体硬化症に関連している.この研究のデータは,足細胞の機能とその結果として糸球体濾過障壁の完全性に Myo1E が関与することを示すエビデンスとなる.