January 9, 2014 Vol. 370 No. 2
ペルオキシソーム EHHADH の誤標的化と遺伝性腎ファンコニ症候群
Mistargeting of Peroxisomal EHHADH and Inherited Renal Fanconi's Syndrome
E.D. Klootwijk and Others
腎ファンコニ症候群では,近位尿細管細胞の機能障害が腎臓における水分,電解質,低分子栄養素の喪失をもたらす.孤立性ファンコニ症候群のほとんどの型について,遺伝的原因と基礎にある欠損は明らかにされていない.
孤立性常染色体優性ファンコニ症候群を有する 5 世代の黒人家族の特性を,臨床的・遺伝学的に解析した.ゲノムワイド連鎖解析,遺伝子配列決定,腎近位尿細管細胞の生化学的・細胞生物学的検討,ノックアウトマウスでの研究,ミトコンドリアの機能評価を行った.プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)分光法を用いて尿を検査した.
この家族のファンコニ症候群の表現型と,染色体 3q27 上の単一座位とのあいだに関連が認められた.すなわちこの座位で,EHHADH のヘテロ接合性ミスセンス変異がファンコニ症候群とともに分離した.p.E3K 変異によって,脂肪酸のペルオキシソーム酸化に関与し,近位尿細管に発現している酵素の EHHADH の N 末端部分に,新たなミトコンドリア標的モチーフが形成された.免疫細胞蛍光検査により,変異 EHHADH がミトコンドリアを誤標的化することが示された.近位尿細管細胞の検討では,ミトコンドリアの酸化的リン酸化の障害と,上皮を通過する液体,グルコース類似体輸送の欠損が明らかになった.1H-NMR 分光法では,罹患家族の尿においてミトコンドリア代謝産物の濃度上昇が認められた.Ehhadh ノックアウトマウスでは,腎尿細管細胞に異常は認められず,ハプロ不全ではなく,変異の優性阻害性が示唆された.
ペルオキシソーム EHHADH が標的を誤ることによりミトコンドリア代謝が乱れ,腎ファンコニ症候群が発生する.このことから,近位尿細管の機能にミトコンドリアが中心的役割を果たすことが示唆される.ファンコニ症候群の単一遺伝子による機序スペクトラムに,誤って標的化された蛋白の優性阻害効果が加わった.(欧州委員会第 7 次フレームワークプログラムほかから研究助成を受けた.)