November 12, 2015 Vol. 373 No. 20
悪性黒色腫の前駆病変から悪性黒色腫への遺伝学的進展
The Genetic Evolution of Melanoma from Precursor Lesions
A.H. Shain and Others
悪性黒色腫の病因となる変異の一覧はおおむね明らかにされているが,その発生の順序は不明である.
37 の原発性悪性黒色腫とそれに隣接する前駆病変を用いて,150 部位を採取し,293 の癌関連遺伝子の配列を決定した.これらの部位の病理組織学的スペクトラムには,明らかな良性病変から,中間病変,表皮内悪性黒色腫,浸潤性悪性黒色腫までが含まれた.
前駆病変では,マイトジェン活性化プロテインキナーゼ経路を活性化することで知られる遺伝子がまず変異していた.明らかな良性病変では BRAF V600E 変異のみがみられ,中間に分類される病変では NRAS 変異と他のドライバー変異が多く認められた.中間病変と表皮内悪性黒色腫では部位の 77%に TERT プロモーター変異がみられ,これらの変異が腫瘍の進展において想像以上に早い段階で選択的に生じていることを示す知見であった.CDKN2A の両アレルの不活性化は浸潤性悪性黒色腫でのみ発現していた.PTEN 変異,TP53 変異は進行した原発性悪性黒色腫でのみみられた.点変異の量は,良性病変から中間病変,悪性黒色腫の順に多くなり,すべての進展段階で紫外線が影響していることを示す強い特徴があった.コピー数の変化は浸潤性悪性黒色腫でのみ多くみられた.腫瘍の不均一性は,悪性黒色腫の進展に伴って,遺伝学的に異なるサブグループの形で現れた.
この研究でわれわれは,悪性黒色腫のサブタイプによって異なる進展経路をとることを示し,悪性黒色腫の進展過程における一連の遺伝子変異を明らかにした.それにより,2 つ以上の病原性遺伝子変化と特有の病理組織学的所見を特徴とする,色素性腫瘍の中間分類を明らかにした.さらに,紫外線が悪性黒色腫の発生と進展の両方における主な因子であることを示した.(米国国立衛生研究所ほかから研究助成を受けた.)