August 18, 2016 Vol. 375 No. 7
遺伝子検査に基づく誤診と医療格差の可能性
Genetic Misdiagnoses and the Potential for Health Disparities
A.K. Manrai and Others
肥大型心筋症リスクの層別化は,標的遺伝子の検査によってこの 10 年あまりで向上している.配列決定の結果をもとに,患者の親族の肥大型心筋症リスクを評価し,はっきりしない臨床所見の患者で肥大型心筋症の診断を確定するということが日常的に行われている.しかし,遺伝子検査のこのような利益には,多様体が誤って分類されている可能性があるというリスクが伴う.
公開エクソームデータを用いて,これまで肥大型心筋症の原因とみなされてきた多様体と,一般集団で大きな比率を占める多様体を同定した.これらの多様体を多様な集団で調査し,それらを最初に報告している医学文献を再検討した.また,代表的な遺伝子検査機関の患者記録を用いて,その 10 年近い歴史のなかでそれらの多様体がどの程度発現しているかを調査した.
検査当時の知見に基づき「病原性」と誤分類されていた多様体を有し,陽性と報告されていた患者は複数いたが,その全員の祖先がアフリカ系または詳細不明であった.その後,それらの多様体はすべて良性と分類し直された.一般集団で高頻度に認められた変異は,黒人のアメリカ人で認められる頻度が,白人のアメリカ人よりも有意に高かった(P<0.001).シミュレーションから,対照コホートに少数でも黒人のアメリカ人が含まれていれば,これらの誤分類を防止できたことが示された.われわれは,医学文献において,このような誤りに寄与した方法論的弱点を同定した.
今回の研究で,良性の多様体が病原性として誤分類されている例が発見されたことは,症状のない対照集団と検査済みの患者集団の両方を含む,多様な集団のゲノム配列を決定する必要があることを示している.今回の結果は,多様体の解明に祖先でマッチさせた対照集団を用いることを推奨している現行のガイドラインを拡大するものである.祖先の異なる集団のゲノム配列が決定されてゆけば,とくにこれまで十分に研究されていない祖先集団について,分類し直される多様体が増えるものと期待される.(米国国立衛生研究所から研究助成を受けた.)