潜在性甲状腺機能低下症の高齢者に対する甲状腺ホルモン療法
Thyroid Hormone Therapy for Older Adults with Subclinical Hypothyroidism
D.J. Stott and Others
潜在性甲状腺機能低下症の治療にレボチロキシンを使用することについては意見が分かれている.われわれは,潜在性甲状腺機能低下症の高齢者において,レボチロキシンに臨床的利益があるかどうかを検討した.
65 歳以上で,潜在性甲状腺機能低下症(甲状腺刺激ホルモン濃度は 4.60~19.99 mIU/L,遊離サイロキシン濃度は基準範囲内)が持続している 737 例を対象に,二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間試験を行った.368 例をレボチロキシン群(開始用量は 1 日 50μg,体重が<50 kg または冠動脈心疾患を有する場合は 25μg)に割り付け,甲状腺刺激ホルモン濃度をもとに用量調整を行った.369 例はプラセボ群に割り付け,偽用量調整を行った.主要評価項目は,1 年の時点における甲状腺関連 QOL 質問票の甲状腺機能低下症状スコアの変化と疲労スコアの変化の 2 つとした(各スケールの範囲は 0~100 で,スコアが高いほど,それぞれ症状が多いこと,疲労が大きいことを示す.臨床的に重要な差の最小値は 9 点).
患者の平均年齢は 74.4 歳であり,396 例(53.7%)が女性であった.甲状腺刺激ホルモン濃度の平均(±SD)は,ベースラインで 6.40±2.01 mIU/L であったのが,1 年の時点で,プラセボ群で 5.48 mIU/L に減少したのに対し,レボチロキシン群では 3.63 mIU/L に減少した(P<0.001).用量の中央値は 50μg であった.1 年の時点における甲状腺機能低下症状スコアの平均変化量(プラセボ群 0.2±15.3 とレボチロキシン群 0.2±14.4,群間差 0.0,95%信頼区間 [CI] -2.0~2.1),疲労スコアの平均変化量(それぞれ 3.2±17.7 と 3.8±18.4,群間差 0.4,95% CI -2.1~2.9)に差は認められなかった.副次的評価項目にもレボチロキシンの有益な効果は認められなかった.事前に指定した,とくに関心の高かった重篤な有害事象の有意な過剰発現は認められなかった.
潜在性甲状腺機能低下症の高齢者において,レボチロキシンに明らかな有益性は認められなかった.(欧州連合第 7 次フレームワークプログラムほかから研究助成を受けた.TRUST 試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT01660126)