April 17, 1997 Vol. 336 No. 16
ヒトの機能不全心臓のアポトーシス
APOPTOSIS IN THE FAILING HUMAN HEART
G. OLIVETTI AND OTHERS
筋細胞の喪失は,虚血性または非虚血性原因を問わず心不全発症における重要なメカニズムである.しかし,プログラムされた細胞死(アポトーシス)が心不全の最終段階に関与しているか否かはわかっていない.したがって,われわれは難治性うっ血性心不全患者における心筋アポトーシスの程度を調べた.
心臓移植を受けた患者 36 人の心臓と,心筋梗塞後まもなく死亡した患者 3 人の心臓から心筋サンプルを得た.11 個の正常な心臓サンプルを対照として用いた.アポトーシスを組織化学的,生化学的に,そして組織化学分析と共焦点顕微鏡を組み合せて評価した.アポトーシスに影響を及ぼす二つの前癌遺伝子 proto-oncogene,BCL2 および BAX の発現も測定した.
心不全は,形態学的には筋細胞アポトーシスの 232 倍の増加,そして生化学的には DNA のはしご状切断の存在(アポトーシスの指標)と特徴づけられた.筋細胞核における DNA らせん開裂の組織化学的証拠は,共焦点顕微鏡による染色体濃縮および断片化の証拠とともに認められた.これらの知見はすべて,筋細胞のアポトーシスを反映している.BCL2(細胞をアポトーシスから保護する)によって標識された筋細胞の割合は,心不全患者の心臓では正常な心臓の 1.8 倍であったのに対し,BAX(アポトーシスを促進する)による標識は不変であった.心不全患者の心組織では BCL2 の発現量がほぼ倍増していたことが Western blotting により確認された.
筋細胞のプログラムされた死は,BCL2 の発現増加にもかかわらず,代償不全ヒト心臓に起る; この現象は心機能不全の進行に関与する可能性がある.