遺伝性非ポリポーシス大腸癌の発生率とこの疾患の分子スクリーニングの成否
INCIDENCE OF HEREDITARY NONPOLYPOSIS COLORECTAL CANCER AND THE FEASIBILITY OF MOLECULAR SCREENING FOR THE DISEASE
L.A. AALTONEN AND OTHERS
大腸癌の素因となる遺伝子障害には,ポリポーシス症候群と遺伝性非ポリポーシス大腸癌がある.ポリポーシス症候群とは対照的に,遺伝性非ポリポーシス大腸癌には明確な臨床的特徴がない.しかし,DNA ミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列変異は,この疾患に特有の分子的特徴である.そのような変異の保有者の臨床的スクリーニングを行えば癌の予防に役立ちうるため,この疾患の分子スクリーニングに応用可能な戦略を考案することが重要である.
大腸腺癌を有する一連の患者 509 人から得た腫瘍標本について,遺伝性大腸癌の特徴である DNA 複製エラーの有無をプロスペクティブにスクリーニングした.これらの複製エラーは,腫瘍 DNA のマイクロサテライトマーカー分析を通じて検出した.複製エラーを有する患者の正常組織からの DNA において,ミスマッチ修復遺伝子 MLH1 と MSH2 の生殖細胞系列変異の有無をスクリーニングした.
患者 509 人中,63 人(12%)に複製エラーを認めた.この 63 人中 10 人から採取した正常組織検体で,MLH1 と MSH2 に生殖細胞系列変異が認められた.この 10 人(全体 [509 人] の 2%)のうち,9 人に子宮内膜癌または大腸癌の第一度近親者がおり,7 人は 50 歳未満であり,4 人に大腸癌または子宮内膜癌の既往があった.
フィンランドにおけるこの一連の大腸癌患者では,少なくとも 2%が遺伝性非ポリポーシス大腸癌であった.われわれは,以下の基準の一つ以上を満たす大腸癌のすべての患者に対し,複製エラーに関する検査を推奨する:大腸癌または子宮内膜癌の家族歴,50 歳未満,複数の大腸癌または子宮内膜癌の既往.複製エラーが存在することが判明した患者は,DNA ミスマッチ修復遺伝子における生殖細胞系列変異の有無についてさらに分析を受けるべきである.