October 14, 1999 Vol. 341 No. 16
早期肺癌の治療における人種差
Racial Differences in the Treatment of Early-Stage Lung Cancer
P.B. BACH, L.D. CRAMER, J.L. WARREN, AND C.B. BEGG
非小細胞肺癌は,早期に発見されたならば,外科的切除によって完治する可能性がある.しかしながら,この疾患の黒人患者と白人患者には二つの相違が認められることが示されている.それは,黒人は白人よりも外科的治療を受けることが少なく,早期に死亡する可能性が高いということである.今回,われわれは,外科的治療の割合における相違を推定すること,およびこの相違が全体的な生存率の差にどの程度関連しているのかを評価することを目的として,人口ベースの研究を実施した.
1985 ~ 93 年の期間に切除可能な非小細胞肺癌(病期が I 期または II 期)と診断され,監視,疫学および最終結果(Surveillance, Epidemiology,and End Results : SEER)プログラムが実施された 10 の研究地域のうちの 1 地域に居住していた 65 歳以上の黒人および白人のすべての患者(10,984 例)を対象として,本研究を行った.患者の診断,癌の病期,治療,および人口統計学的特性に関するデータは,SEER データベースから入手した.合併症,メディケア(老齢者医療保障制度)の適応の種類,および生存についての情報は,そのデータベースにリンクしたメディケアの入院患者の退院記録から入手した.
手術の割合は,黒人患者が白人患者よりも 12.7 パーセントポイント低く(64.0% 対 76.7%,p < 0.001),5 年生存率も黒人患者で低かった(26.4% 対 34.1%,p < 0.001).しかしながら,手術を受けた患者だけでみると,生存率は二つの人種群で同程度であり,このことは手術を受けなかった患者だけでみた場合も同様であった.さらに,手術の施行や生存率を予測する因子で補正した解析でも,これらの転帰に対する人種の影響に変化は認められなかった.
今回の解析は,早期の非小細胞肺癌の黒人患者の生存率が白人患者の生存率と比較して低かったが,この生存率の低下は,黒人患者における外科的治療の割合が小さかったことによってほとんど説明されるということを示している.したがって,黒人患者に対する外科的治療の施行率を上昇させる努力が,この患者群の生存を改善させる有望な方法の一つであると思われる.