特発性肝疾患患者におけるケラチン 8 突然変異
Keratin 8 Mutations in Patients with Cryptogenic Liver Disease
N.-O. KU, R. GISH, T.L. WRIGHT, AND M.B. OMARY
肝臓移植を受ける患者の約 10%は原因不明の肝疾患である.動物モデルでは,肝細胞に,ヘテロ重合体のケラチン 8 およびケラチン 18 が存在しないこと,あるいは突然変異体のケラチンが存在することが,肝疾患の原因となったり,その発症を早めたりしている.以前われわれは,1 人の原因不明の肝硬変の患者で検出されたケラチン 18 遺伝子の突然変異について報告したが,このような患者におけるケラチン 8 遺伝子とケラチン 18 遺伝子の突然変異の重要性については明らかにされていない.
ケラチン 8 遺伝子とケラチン 18 遺伝子の突然変異を調べる検査は,移植時に取り出された肝臓 150 個と末梢血検体 89 個から単離,精製したゲノム DNA を用いて,以下の三つの患者群について行った:原因不明の肝疾患の患者 55 例;飲酒,自己免疫,薬物使用,およびウイルス感染症などの原因が特定されていた肝疾患の患者 98 例;無作為に抽出された入院および外来患者で,血液を血液検査室に提供してくれた患者 86 例.
原因不明の肝疾患の 55 例の患者のうち,3 例にはケラチン 8 の 61 番目(高度に保存されたグリシン)でグリシン(Gly)からシステイン(Cys)への突然変異が認められ,2 例にはケラチン 8 の 53 番目でチロシン(Tyr)からヒスチジン(His)への突然変異が認められた.これらの突然変異は,原因が特定されていた肝疾患の患者や無作為に抽出された患者には検出されなかった.遺伝子を導入した細胞を用いた検討では,グリシンからシステインへの突然変異は,細胞が酸化ストレスに曝露されたときにケラチンフィラメントの再構築を制限した.これとは対照的に,チロシンからヒスチジンへの突然変異は,遺伝子導入された細胞が熱やオカダ酸のストレスに曝されたときにケラチンフィラメントを不安定にした.
ケラチン 8 遺伝子の突然変異が肝疾患の素因を与えることも考えられ,原因不明の肝疾患の患者の一部は,この突然変異で説明できるかもしれない.