家族性ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群の原因遺伝子の同定
Identification of a Gene Responsible for Familial Wolff–Parkinson–White Syndrome
M.H. GOLLOB AND OTHERS
ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群は,西欧諸国では 1,000 人当り 1.5~3.1 人という有病率の疾患であるが,病的状態を引き起し,突然死の原因になることもある.われわれは,ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群が常染色体優性に遺伝する二つの家系を同定することができた.
2 家系 70 人の家族を対象に検討を行った(家系 1 の家族 57 人と家系 2 の家族 13 人).被験者には,12 誘導心電図検査と二次元の心エコー検査を実施した.遺伝子型から,すでにある遺伝性ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群の原因とされている遺伝子座 7q34–q36 に,責任遺伝子が位置していることが明らかにされた.原因遺伝子を同定するために,候補遺伝子を同定して塩基配列を決定し,候補遺伝子の分析を正常な家族と病気の家族において実施した.
合計で 31 人の家族(家系 1 の家族 23 人と家系 2 の家族 8 人)が,ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群にかかっていた.どちらの家系の病気の家族にも,伝導異常による心室の異常早期興奮と心肥大が認められた.最大 2 点ロッドスコアは,マーカー D7S636 から 5 cM の位置で 9.82 であった.この結果は,両家系において,原因遺伝子が 7q34–q36 に連鎖していることを確証するものである.ハプロタイプの分析からは,この遺伝子座には二つの家系に共通する対立遺伝子が存在していないことが示されたので,この 2 家系の発端者が同一人物ではないことが示唆された.AMP 活性化プロテインキナーゼの γ2 調節サブユニット(PRKAG2)をコードしている遺伝子に,1 個のミスセンス突然変異を同定した.この突然変異は,その結果として,この蛋白の 302 番目のアミノ酸残基をアルギニンからグルタミンに置換させている.
この疾患の遺伝的欠陥を同定することは,心室の異常早期興奮の病因を明らかにするために重要な意味がある.今後,この分子的欠陥がいかにして上室性不整脈に導くのかを理解することは,これ以外の病型の上室性不整脈に対する特異的な治療法の開発に影響するであろう.