新生児肺高血圧症 ― 尿素回路の中間産物,一酸化窒素の産生,およびカルバモイルリン酸合成酵素の機能
Neonatal Pulmonary Hypertension — Urea-Cycle Intermediates, Nitric Oxide Production, and Carbamoyl-Phosphate Synthetase Function
D.L. PEARSON AND OTHERS
一酸化窒素(NO)の内因性産生は,出生後の正常な過程として起る肺血管抵抗の低下に必要不可欠なものである.この一酸化窒素の前駆物質は,尿素回路の中間産物の一つであるアルギニンである.われわれは,新生児では低濃度のアルギニンが持続性肺高血圧症の発症と相関しているという仮説を立てて,さらに,この前駆物質の供給はカルバモイルリン酸合成酵素の機能的多型(1405 の位置のスレオニン(T)がアスパラギン(N)に置換 [T1405N])の影響を受けているために,これが尿素回路の律速段階を制御しているという仮説へと展開した.
ほぼ満期で産まれた呼吸困難の新生児 65 例を対象として,血漿中のアミノ酸濃度の測定と,カルバモイルリン酸合成酵素の変異体の遺伝子型の決定を行った.血漿中の一酸化窒素の代謝物については,これらの患児の 10 例から成る部分集団で測定した.肺高血圧症は心エコー検査によって評価し,肺高血圧症の新生児から得られた検査結果を,肺高血圧症ではなかった新生児の検査結果と比較した.試験集団におけるカルバモイルリン酸合成酵素の遺伝子型の頻度については,Hardy–Weinberg の平衡に当てはめて評価した.
肺高血圧症の新生児は,肺高血圧症ではなかった新生児と比較して,アルギニンの平均濃度(±SD)(20.2±8.8 対 39.8±17.0 μmol/L,p < 0.001)と,一酸化窒素の代謝物の濃度(18.8±12.7 対 47.2±11.2 μmol/L,p < 0.05)が低かった.カルバモイルリン酸合成酵素の変異体の遺伝子型については,この試験の新生児の分布は,一般集団の分布と比較して,1405 の位置で有意に歪んだ分布になっていた(p < 0.005).肺高血圧症の新生児には,T1405N の多型のホモ接合は 1 例もいなかった.
持続性肺高血圧症の新生児は,血漿中のアルギニン濃度と一酸化窒素の代謝物の濃度が低くなっている.これらの前駆物質と分解産物の濃度が同時に低下している場合には,一酸化窒素の産生不足が新生児肺高血圧症の病因に関与していることが示唆される.われわれの予備試験段階の観測結果は,遺伝的に決定されている尿素回路の処理能力 -とりわけ,カルバモイルリン酸合成酵素の効率- が,一酸化窒素の合成に必要な前駆物質の利用率に寄与しているのかもしれないということを示唆している.