居住地の近隣環境と冠動脈心疾患の発症率
Neighborhood of Residence and Incidence of Coronary Heart Disease
A.V. DIEZ ROUX AND OTHERS
普通は,住んでいる場所がその人の健康の独立した予測因子であるとは考えられないが,住居の場所の物理的および社会的特徴が健康と健康に関連した行動に影響を及ぼしているという可能性はある.
地域社会におけるアテローム性動脈硬化症のリスクに関する研究(the Atherosclerosis Risk in Communities Study)のデータを用いて,近隣の特性と冠動脈心疾患の発症との関係について検討した.この研究への参加者は,研究開始時の年齢が 45 ~ 64 歳の,以下の米国の四つの研究対象地域から抽出された人々であった:ノースカロライナ州フォーサイス地方,ミシシッピ州ジャクソン,ミネアポリスの北西部の郊外,およびメリーランド州ワシントン地方.参加者の近隣者として,米国国勢調査で定義されているとの同様に,平均 1,000 人の人々を含んだ街区集団を使用した.また,それぞれの近隣の社会経済環境について,財産と所得,教育,および職業に関する情報などを取り入れた要約スコアを考案した.
中央値が 9.1 年間という追跡調査の期間中に,13,009 人の参加者に 615 件の冠動脈イベントが発生した.劣位の立場にある近隣者(要約スコアが低い近隣者)に囲まれた居住地の住人は,個人の所得,教育,および職業で補正した場合でさえも,優位の立場にある近隣者に囲まれた居住地の住人よりも,この疾患にかかるリスクが高かった.もっとも劣位の立場にある近隣者に囲まれた居住地に住んでいる低所得層の人々の冠動脈心疾患のハザード比は,もっとも優位の立場にある近隣者に囲まれた居住地に住んでいる高所得層の人々と比較した場合には,白人が 3.1(95%信頼区間,2.1 ~ 4.8),黒人が 2.5(95%信頼区間,1.4 ~ 4.5)であった.これらの関連は,確証されている冠動脈心疾患の危険因子で補正しても変化しなかった.
この研究では,劣位の立場にある近隣者に囲まれた場所で生活することは,個人の所得,教育,および職業で補正しても,冠動脈心疾患の発症率が上昇することに結び付くという結果が得られた.