1990~1999 年のニューヨーク市における結核伝播の変化
Changes in the Transmission of Tuberculosis in New York City from 1990 to 1999
E. GENG AND OTHERS
この 10 年で,ニューヨーク市および米国における結核の発症率は低下してきた.しかし,発症率の低下は主に米国で出生した人々に限られている.米国以外で出生した人で低下が少ない理由がわかれば,結核対策の新たな戦略につながる可能性がある.
1990~99 年にマンハッタン北部で培養陽性を示した結核患者から単離した菌について,IS6110 挿入配列を用いて DNA フィンガープリンティングを行った.目的は,最近の伝播によるものと思われる,複数の感染(症例のクラスター)の原因菌株と,1 例の患者のみからみつかった,おそらく潜伏感染の再燃を示す菌株を同定することであった.
入手しえた結核菌分離株 546 検体のうち,261 検体(48%)はクラスターに属し,285 検体(52%)はクラスターではなかった.多変量分析では,クラスターではないことの有意な予測因子は,米国以外で出生していること(外国で出生した非ヒスパニック系でクラスターを引き起す菌株のオッズ比 0.31;95%信頼区間 0.14~0.66;外国で出生したヒスパニック系でクラスターを引き起こす菌株のオッズ比 0.51;95%信頼区間 0.30~0.88),60 歳を超えていること(オッズ比 0.37),1993 年以降に診断されていること(オッズ比 0.50)であった.これらすべての特性は,最近の伝播による結核ではなく,結核の再燃と関連しているようであった.ホームレスであることは,クラスター発生と関連しており(オッズ比 1.78;95%信頼区間 0.99~3.20),したがって最近の伝播によるものであった.
マンハッタン北部で得たこれらの知見は,外国で出生した人では結核は主に潜伏感染の再燃により起り,一方米国で出生した人では,多くの症例が,最近の伝播によって起こっていることを示唆している.外国で出生した高リスク者における結核の管理・排除戦略は,潜在性結核感染症の治療に向けるべきである.