January 27, 2005 Vol. 352 No. 4
鳥インフルエンザ A(H5N1)のヒトからヒトへの伝播の可能性
Probable Person-to-Person Transmission of Avian Influenza A(H5N1)
K. Ungchusak and Others
2004 年,高病原性鳥インフルエンザ A(H5N1)ウイルスによりアジア 8 ヵ国で鳥インフルエンザが発生し,ヒトでは少なくとも 44 例が感染,32 例が死亡した.感染者の大半が家禽と密接に接触していた.ヒトからヒトへの感染伝播を示す証拠は報告されていない.われわれは,タイで鳥インフルエンザに感染した家族を対象に,ヒトからヒトへの伝播の可能性について調査した.
感染者 3 例それぞれについて,家禽や他の発症者に接触した状況と時期について調べた.専門家チームが生存患者を隔離・治療し,接触した者には疾患に対する積極的な監視と防疫を開始し,感染が起った村の周辺で生き残った家禽を処分した.感染家族から採取した標本を,ウイルス培養法,マイクロ中和抗体法,免疫組織検査,逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR),遺伝子配列決定法により調べた.
発端患者は,家で飼っている瀕死のニワトリに最後に接触してから 3~4 日後に発症した.患者の母親は,看護のため遠方の都市から病院を訪れており,家禽への接触は認められていないが,防護なしで 16~18 時間看護を行ったあと,肺炎で死亡した.伯母も防護なしで看護を行い,母親が最初に発熱した日から 5 日後に発熱し,その 7 日後肺炎を発症した.母親の剖検組織および伯母の鼻咽頭スワブと喉頭スワブは,RT-PCR でインフルエンザ A(H5N1)陽性であった.それ以上の感染伝播鎖は確認されておらず,ウイルス遺伝子の配列を決定したところ,血球凝集素の受容体結合部位の変化やウイルスのその他重要な特徴は確認されなかった.配列は,8 つのウイルス遺伝子断片すべてで,最近タイでトリから分離された別の H5N1 ウイルスの配列と相同性が高かった.
母親と伯母の疾患は,重篤な発端患者に防護なしで接触中に,この致死的な鳥インフルエンザウイルスがヒトからヒトに伝播した結果と考えられる.