September 7, 2006 Vol. 355 No. 10
妊娠高血圧腎症における可溶性エンドグリンと血中のその他の抗血管新生因子
Soluble Endoglin and Other Circulating Antiangiogenic Factors in Preeclampsia
R.J. Levine and Others
妊娠高血圧腎症の病因には,抗血管新生作用をもつ蛋白である血中の可溶性 fms 様チロシンキナーゼ 1(sFlt1)と,血管新生促進作用をもつ蛋白である胎盤成長因子(PlGF)の変化が関与していると考えられる.可溶性エンドグリンは,別の抗血管新生蛋白であるが,sFlt1 と共に作用して妊娠ラットに重度の妊娠高血圧腎症に似た症候群を誘発することから,この蛋白が女性の妊娠高血圧腎症と関連するかどうかを調べた.
妊娠高血圧腎症を予防するためのカルシウム試験(Calcium for Preeclampsia Prevention trial)において,健常な未経産婦を対照にコホート内症例対照研究を行った.この研究には,早期の妊娠高血圧腎症(37 週未満)の女性 72 例全員と,無作為に抽出された女性 480 例が含まれた.480 例の内訳は,満期産(37 週以上)で妊娠高血圧腎症の女性 120 例,妊娠高血圧症の女性 120 例,在胎期間に比して小さい産児を出産した正常血圧の女性 120 例,在胎期間に比して小さくない産児を出産した正常血圧の対照女性 120 例であった.
血中の可溶性エンドグリン濃度は,妊娠高血圧腎症を発症する 2~3 ヵ月前から大きく上昇した.症状を発症後,早期の妊娠高血圧腎症の女性では,平均血清中濃度が 46.4 ng/mL であったのに対し,対照群では 9.8 ng/mL であった(P<0.001).満期産の妊娠高血圧腎症の女性では,平均血清中濃度が 31.0 ng/mL であったのに対し,対照群では 13.3 ng/mL であった(P<0.001).早期妊娠高血圧腎症をのちに発症した女性では,妊娠 17~20 週以降,対照群よりも可溶性エンドグリン濃度が有意に高く(10.2 ng/mL 対 5.8 ng/mL,P<0.001),満期産で妊娠高血圧腎症を発症した女性では,妊娠 25~28 週のエンドグリン濃度が対照群よりも有意に高かった(8.5 ng/mL 対 5.9 ng/mL,P<0.001).可溶性エンドグリン濃度の上昇に伴い,通常,sFlt1:PlGF 比の上昇がみられた.妊娠高血圧腎症のリスクは,両バイオマーカーの対照分布が最高四分位の女性でもっとも高かったが,いずれか一方のバイオマーカーのみでは高くはなかった.
可溶性エンドグリンの血中濃度と sFlt1:PlGF 比の上昇は,妊娠高血圧腎症の発症を予測する.