October 11, 2012 Vol. 367 No. 15
胸膜中皮腫の血液・胸水バイオマーカーとしてのフィブリン-3
Fibulin-3 as a Blood and Effusion Biomarker for Pleural Mesothelioma
H.I. Pass and Others
胸膜中皮腫をより早期に発見し,個別の治療戦略を立てるために,新たなバイオマーカーが必要とされている.われわれは,血漿中と胸水中のフィブリン-3 が,信頼性の高いバイオマーカーとしての感度・特異度の基準を満たすかどうかを検討した.
血漿中(中皮腫患者 92 例,癌のないアスベスト曝露者 136 例,中皮腫に起因しない胸水を呈する患者 93 例,健常対照 43 例),胸水中(中皮腫患者 74 例,良性胸水を呈する患者 39 例,中皮腫に起因しない悪性腫瘍による胸水を呈する患者 54 例),あるいはその両方のフィブリン-3 濃度を測定した.続いて,盲検下で妥当性の検証を行った.免疫組織化学的解析によって腫瘍組織のフィブリン-3 を調査し,酵素免疫測定法により血漿中・胸水中のフィブリン-3 濃度を測定した.
血漿中フィブリン-3 濃度には,年齢,性別,アスベスト曝露期間,X 線像上の変化の程度による差はみられず,胸膜中皮腫患者(デトロイトコホート 105±7 ng/mL,ニューヨークコホート 113±8 ng/mL)では,中皮腫のないアスベスト曝露者(それぞれ 14±1 ng/mL,24±1 ng/mL)よりも有意に高かった(P<0.001).胸水中フィブリン-3 濃度は,胸膜中皮腫患者(デトロイトコホート 694±37 ng/mL,ニューヨークコホート 636±92 ng/mL)において,中皮腫に起因しない胸水を呈する患者(それぞれ 212±25 ng/mL,151±23 ng/mL)よりも有意に高かった(P<0.001).腫瘍細胞は 26 検体すべてが,フィブリン-3 によって選択的に染色された.中皮腫がある患者とない患者の全体的な比較において,血漿中フィブリン-3 濃度の受信者動作特性(ROC)曲線は,カットオフ値をフィブリン-3 52.8 ng/mL とすると,感度 96.7%,特異度 95.5%であった.早期中皮腫患者とアスベスト曝露者との比較では,カットオフ値をフィブリン-3 46.0 ng/mL とすると,感度 100%,特異度 94.1%であった.盲検下での妥当性の検証により,アスベスト曝露者 96 例と中皮腫患者 48 例との比較において,血漿検体の曲線下面積(AUC)は 0.87 であることが示された.
血漿中フィブリン-3 濃度によって,アスベストに曝露した健常者と中皮腫患者とを識別することができる.血漿中フィブリン-3 濃度に胸水中フィブリン-3 濃度を併用することで,中皮腫による胸水と,その他の悪性胸水・良性胸水とをさらに鑑別することが可能である.(早期発見研究ネットワーク,米国国立衛生研究所ほかから研究助成を受けた.)