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October 25, 2012 Vol. 367 No. 17

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アスピリンの使用,腫瘍の PIK3CA 変異,大腸癌生存
Aspirin Use, Tumor PIK3CA Mutation, and Colorectal-Cancer Survival

X. Liao and Others

背景

大腸癌診断後のアスピリンの日常的使用は,臨床転帰の改善に関連することが示されている.実験的証拠からは,アスピリンによるプロスタグランジンエンドペルオキシド合成酵素 2(PTGS2)(シクロオキシゲナーゼ2 としても知られる)の阻害が,ホスファチジルイノシトール 3-キナーゼ(PI3K)シグナル伝達活性をダウンレギュレートすることが示唆されている.われわれは,アスピリンが PIK3CA(ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸 3-キナーゼ触媒サブユニット α ポリペプチド遺伝子)の変異を特徴とする癌を有する患者における生存と予後に及ぼす効果は,PIK3CA 野生型の癌を有する患者における効果とは異なる可能性があるという仮説を立てた.

方 法

看護師健康調査(Nurses' Health Study)と医療従事者追跡調査(Health Professionals Follow-up Study)から,直腸癌または結腸癌の患者 964 例のデータを,癌診断後のアスピリンの使用および PIK3CA 変異の有無に関するデータも含めて入手した.Cox 比例ハザードモデルを用いて,死亡の多変量ハザード比を計算した.PTGS2,リン酸化 AKTKRASBRAF,マイクロサテライト不安定性,CpG アイランドメチル化形質,長鎖散在反復配列 1 のメチル化などの腫瘍マーカーを検討した.

結 果

PIK3CA 変異型大腸癌の患者では,癌診断後のアスピリンの日常的使用は,大腸癌特異的生存率がより良好であること(癌関連死の多変量ハザード比 0.18,95%信頼区間 [CI] 0.06~0.61,log-rank 検定で P<0.001),全生存率がより良好であること(全死因死亡の多変量ハザード比 0.54,95% CI 0.31~0.94,log-rank 検定で P=0.01)との関連が認められた.一方,PIK3CA 野生型大腸癌の患者では,癌診断後のアスピリンの日常的使用は,大腸癌特異的生存率(多変量ハザード比 0.96,95% CI 0.69~1.32,log-rank 検定で P=0.76;変数であるアスピリンと PIK3CA との交互作用について P=0.009),全生存率(多変量ハザード比 0.94,95% CI 0.75~1.17,log-rank 検定で P=0.96;交互作用について P=0.07)との関連が認められなかった.

結 論

PIK3CA 変異型大腸癌の患者では,癌診断後のアスピリンの日常的使用は生存期間がより長いことと関連が認められたが,PIK3CA 野生型大腸癌の患者では関連は認められなかった.今回の分子病理疫学的研究の結果から,大腸癌における PIK3CA 変異は,補助療法としてのアスピリンの効果を予測する分子バイオマーカーとなる可能性が示唆される.(米国国立衛生研究所ほかから研究助成を受けた.)

英文アブストラクト ( N Engl J Med 2012; 367 : 1596 - 606. )