進行性肝細胞癌における癌胎児遺伝子 SALL4
Oncofetal Gene SALL4 in Aggressive Hepatocellular Carcinoma
K.J. Yong and Others
肝細胞癌は世界の癌関連死因の第 3 位である.肝細胞癌の多様な集団のなかで,胚性幹細胞と前駆細胞の遺伝子発現に特徴を有する患者は予後がきわめて不良である.前駆細胞様の特徴を有する肝細胞癌サブタイプのマーカーである癌胎児遺伝子 SALL4 は,予後不良と関連しており,治療標的となる可能性がある.
原発性肝細胞癌患者から採取した検体で SALL4 発現をスクリーニングし,臨床病理学的解析を行った.次に,機能喪失解析を行い,肝細胞癌の発生における SALL4 の役割と,治療における分子標的としての可能性を評価した.SALL4 を標的とするペプチドの治療効果を評価するため,in vitro 機能アッセイと in vivo 異種移植アッセイを用いた.
SALL4 は,ヒト胎児の肝臓で発現している癌胎児蛋白であり,成人の肝臓ではサイレンシングされているが,肝細胞癌で予後不良な患者のサブグループでは再発現している.遺伝子発現解析では,SALL4 陽性肝細胞癌では,増殖性遺伝子と転移性遺伝子を過剰発現している前駆細胞様の遺伝子特性の集積がみられた.機能喪失解析では,SALL4 が細胞生存と発癌に重要な役割を果たしていることが確認された.in vivo 異種移植モデルで SALL4 とコリプレッサーの相互作用を遮断すると,PTEN(ホスファターゼ・テンシンホモログ蛋白)による抑制が開始され,腫瘍形成が阻害された.
SALL4 は進行性の表現型を呈する肝細胞癌の前駆細胞サブクラスに対するマーカーである.健常成人の肝臓では SALL4 の発現が認められないことから,SALL4 が肝細胞癌の治療標的となる可能性は高い.(シンガポール国立医療研究協議会ほかから研究助成を受けた.)