肺動脈性肺高血圧症における新規チャネル障害
A Novel Channelopathy in Pulmonary Arterial Hypertension
L. Ma and Others
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は死亡率の高い,重篤な疾患である.PAH の家族例は,通常浸透率の低い常染色体優性遺伝を特徴とするが,遺伝学的原因が不明な家族例もみられる.
家族内に複数の PAH 患者がおり,この疾患との関連が認められている既知の遺伝子,BMPR2,ALK1,ENG,SMAD9,CAV1 などに変異が認められない 1 家族を検討した.家族の 3 人において,全エクソーム塩基配列決定を行った.全エクソーム塩基配列決定で同定された遺伝子変異について,別の家族性 PAH 患者,または特発性 PAH の患者を対象にスクリーニングを行った.すべての多様体を COS-7 細胞で発現させ,チャネル機能をパッチクランプ法を用いて解析した.
新たに,KCNK3(カリウムチャネルサブファミリー K,ナンバー 3 をコードする遺伝子)にヘテロ接合性ミスセンス多様体 c.608 G→A(G203D)を,この家族における疾患を引き起こす候補遺伝子として同定した.KCNK3 に,さらに 5 つのヘテロ接合性ミスセンス多様体を,血縁関係のない家族性 PAH 患者 92 例と特発性 PAH 患者 230 例において独立に同定した.6 つの新規多様体が障害をもたらすことを予測するため,コンピュータ内の生物情報学的ツールを用いた.チャネルの電気生理学的検討により,これらのミスセンス多様体はすべて機能喪失をもたらすことが示され,カリウムチャネル電流の減少はホスホリパーゼ阻害薬 ONO-RS-082 の投与により改善された.
この研究により,新規の遺伝子 KCNK3 と,家族性 PAH および特発性 PAH との関連を見出した.この遺伝子の変異によりカリウムチャネル電流が減少したが,これは薬理学的操作により改善された.(米国国立衛生研究所から研究助成を受けた.)