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    NEJM.orgからピックアップされている注目記事の一覧です.

March 15, 2001
Vol. 344 No. 11

ORIGINAL ARTICLES

  • 転移性乳癌に対する抗 HER2 モノクローナル抗体
    A Monoclonal Antibody against HER2 for Metastatic Breast Cancer

    乳癌の約 25%では,HER2 と呼ばれる蛋白が腫瘍細胞で過剰発現している.この研究では,HER2 陽性転移性乳癌の女性を対象に抗 HER2 モノクローナル抗体トラスツズマブの治療効果を検討した.女性を無作為に割り付け,通常の化学療法とトラスツズマブの併用療法,または化学療法を単独で行った.併用療法の転帰は,単独療法よりも良好であった.心毒性(心不全として発現)が,アントラサイクリンを含む併用療法を受けた女性の 27%に生じた.

    上皮増殖因子受容体である HER2 は,乳癌に特異的な治療標的である.化学療法に HER2 蛋白を標的とするモノクローナル抗体を追加することで,この予後不良な疾患において,有望な結果が得られた.しかし,抗体による心毒性はかなり憂慮すべきものである.とくに,乳癌治療に多く用いられるアントラサイクリンにも心毒性があるので,問題である.

  • 乳児における ABO 不適合心臓移植
    ABO-Incompatible Heart Transplantation in Infants

    致命的な心疾患の乳児に利用できる移植心臓の数は,非常に限られている.この研究では,心移植の成功のためには,ドナー-レシピエント間の血液型適合が必要か否かを検討した.重度の先天性心疾患または心筋症の乳児 10 例が,ABO 不適合のドナーから心移植を受けた.全体の生存率は 80%であった.超急性拒絶反応をきたした例はなく,ドナー-レシピエント間の ABO 不適合に関連する病態も生じなかった.

    これらの移植の予期せぬ成功は,非常に若年の乳児における免疫系の未成熟に,一部起因するのかもしれない.ABO 不適合のドナーとレシピエントの組合せによる心臓移植によって,移植心を待つ期間が短縮し,その結果こうした重症患児の心疾患死亡率が低下する可能性がある.

  • 小児におけるラクロス脳炎
    La Crosse Encephalitis in Children

    小児におけるラクロス脳炎

    ウェストバージニア州からのこの報告は,血清学的にラクロス脳炎と診断された小児 127 例の,臨床所見と臨床経過を記述している.半数近い患児で痙攣が生じ,その一部では痙攣重積状態が生じた.また患児の 13%で,頭蓋内圧亢進の徴候を認めた.患児全例が生存したが,退院時の神経学的障害や,1 年後の追跡時点での認知機能障害が生じた例もあった.

    今回の大規模な症例報告は,蚊媒介性のアルボウイルス感染症であるこの疾患が,十分認識されていない可能性を示唆している.一部の患者では,当初,単純ヘルペス脳炎,エンテロウイルス髄膜炎,部分的に治療された細菌性髄膜炎と診断されていた.

  • 虫垂切除術と潰瘍性大腸炎の保護
    Appendectomy and Protection against Ulcerative Colitis

    潰瘍性大腸炎の原因は明らかでない.最近の報告では,過去に虫垂切除を行った患者で,潰瘍性大腸炎の発生率が低いことが示唆されている.スウェーデンからのこの研究は,虫垂切除術とその後の潰瘍性大腸炎との関連をさらに検討した.非特異的な腹痛にではなく,虫垂炎やリンパ節炎などの炎症性病態に対して行われた虫垂切除術が,その後の潰瘍性大腸炎の低リスクと関連していることを研究者らは見出した.この逆の関連性は,20 歳未満で虫垂切除を受けた患者に限定されていた.

    今回の知見は,虫垂切除術と潰瘍性大腸炎との逆相関に関するエビデンスを強化するものである.逆相関に対する解釈は明らかではないが,今回の報告は,潰瘍性大腸炎の病因解明の一助になるかも知れない.

SPECIAL ARTICLES

  • HIV 感染に対する医療費の変化
    Appendectomy and Protection against Ulcerative Colitis

    HIV 感染に対する医療費の変化

    高活性抗レトロウイルス療法は,効果的だが高額である.今回の分析で,「HIV の医療費とサービス利用に関する研究」の研究者らは,米国民を代表するデータを利用してこの治療法導入以後の医療費の変化を調査した.1996~98 年にかけて,患者当り年間総医療費の推定値は $ 20,300 から $ 18,300 に低下した.薬剤に対する支出額の増加以上に,入院医療に対する支出額が減少した.高活性抗レトロウイルス療法の使用は,総支出額の低下と独立に関連していた.

    HIV 感染に対するより効果的な治療の総合的な帰結として,入院の減少による費用の節減が主因となって,資源の総利用量が減少したと思われる.しかしこの利益は,黒人,女性,私的健康保険の非加入患者を含む,医療サービスを余り受けれない患者の集団にまでは及んでいない.

  • HIV 疾患に対する併用抗レトロウイルス療法の費用対効果
    The Cost Effectiveness of Antiretroviral Therapy for HIV Disease

    この研究では,いくつかの主要な臨床試験のデータを用いて,HIV 疾患に対する 3 剤併用抗レトロウィルス療法の臨床的有益性と費用対効果を推定した.疾患進行の予測因子として,CD4 細胞数と HIV RNA 量を含んだシミュレーションモデルを開発した.3 剤療法の増分費用対効果は,無治療と比較すると,QOL 補正生存年の 1 年当り $ 23,000 であった.

    今回の分析は,HIV 感染患者に対する 3 剤併用療法が,費用対効果の高い資源利用であることを示している.今回の研究結果によると,HIV 疾患に対する抗レトロウイルス療法は,高コレステロール血症の治療や早期乳癌に対する放射線治療よりも,費用対効果が高い.