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    NEJM.orgからピックアップされている注目記事の一覧です.

June 7, 2001
Vol. 344 No. 23

  • 血友病 A に対するウイルスを用いない遺伝子導入療法
    Nonviral Gene-Transfer Therapy for Hemophilia A

    血友病 A に対するウイルスを用いない遺伝子導入療法

    重症の血友病 A 患者 6 例の皮膚線維芽細胞を培養し,第 VIII 因子をコードする遺伝子の一部を含むプラスミドを用いて遺伝子を導入した.遺伝子導入を 行った細胞をクローニングし,増殖させ,患者の大網に安全に移植した.移植を受けた患者の一部で,最大 10 ヵ月にわたり,血漿第 VIII 因子活性レベルが上昇し,出血が減少した.
    遺伝子治療は,治療効果をもつ可能性のある遺伝子を患者に導入することが困難だったため,進歩が遅れていた.今回の著者らは,ヒト第 VIII 因子をコードする遺伝子を束ねて,哺乳類細胞には感染し得ないプラスミド内に注入し,電気刺激によって,この遺伝子パッケージを繊維芽細胞内に導入した.この遺伝子組み換え細胞は,臨床的問題を起さず,一部の患者で第 VIII 因子を産生した.現時点では,この方式の遺伝子治療の有効性を結論付けるのは時期早尚である.

  • エストロゲン療法中の甲状腺機能低下症の女性におけるサイロキシンの必要量の増加
    Increased Need for Thyroxine in Women with Hypothyroidism during Estrogen Therapy

    エストロゲン療法中の甲状腺機能低下症の女性におけるサイロキシンの必要量の増加

    この研究では,甲状腺機能が正常の閉経女性と,サイロキシン治療中の甲状腺機能低下症の閉経女性を対象に,下垂体 - 甲状腺機能に対するエストロゲン治療の影響を検討した.甲状腺機能低下症の女性 25 例では,エストロゲン治療によって,遊離サイロキシンの血清濃度が減少し,甲状腺刺激ホルモンの血清濃度が上昇した.こうした変化は,一部の症例では,サイロキシンの増量が必要になるほどの大きさだった.一方,甲状腺機能が正常の女性 11 例では,これらの変化は生じなかった.
    この研究は,エストロゲン治療中に生ずる,血清サイロキシン結合グロブリン濃度の上昇の程度や経時的推移と,その後の下垂体 - 甲状腺機能の変化を示している.今回観察された変化の大きさは,エストロゲンの投与中は常に,サイロキシン治療の適切さを評価する必要があることを示している.

  • ヒト心筋細胞が心筋梗塞後に分裂することを示す証拠
    Evidence That Human Cardiac Myocytes Divide after Myocardial Infarction

    ヒト心筋細胞が心筋梗塞後に分裂することを示す証拠

    成人心臓の心筋細胞は複製不能であり,障害後の心臓は修復不能であるという考えが,一般に受け入れられてきた.急性心筋梗塞で死亡してから数日以内の患者 13 例の心臓を対象とするこの研究では,特殊な心筋染色法を用いて,心筋細胞の分裂活動が,梗塞の近傍領域と梗塞から離れた領域の双方で生じていることを確認した.
    この研究は,心臓の急性障害後に,心筋細胞が分裂可能であるという証拠を示している.今回の知見は,心臓が再生不能であるとするこれまでの定説に異を唱えるものであり,心臓がある程度まで自己修復しうるという可能性を開くものである.

    • 同種骨髄移植による IPEX の治療
      Treatment of IPEX by Allogeneic Bone Marrow Transplantation

      同種骨髄移植による IPEX の治療

      X 染色体連鎖免疫調節異常,多発性内分泌障害,腸症症候群(IPEX)は,男児に生ずる,まれで,通常は致死的な疾患であり,難治性下痢,魚鱗癬様皮膚炎,インスリン依存性糖尿病,甲状腺炎,溶血性貧血が特徴である.本疾患の小児1 例が,HLA 型の一致する姉妹からの骨髄移植を受け,2 年以上にわたり寛解を維持した.寛解期間中に,急速進行性血液細胞貪食症候群が生じ,移植後29 ヵ月で患児は死亡した.
      IPEX は,CD4 +ヘルパー T リンパ球の制御の鍵となる役割を果す遺伝子である FOXP3 の突然変異と関係しているため,関心を集めている.制御されていない T リンパ球は,組織に浸潤し障害を与え,自己抗体の形成を誘発する.この患児では,おそらく移植前に用いた強度の前治療により,変異型 T リンパ球の大半が消失し,姉妹由来のリンパ球によって,患児の免疫系が維持されたものと思われる.

      • AIDS の最初の 20 年
        The First 20 Years of AIDS

        AIDS の最初の 20 年

        今週は,後天性免疫不全症候群(AIDS)としてその後知られるようになった疾患の第一報から 20 周年にあたる.1981 年の時点で,それまで健康だった若年のホモセクシャル男性 5 例に発生した,カリニ肺炎や他の異常な感染症の報告が,世界的な健康危機の予兆になると信じる者はまったくなかったであろう.本誌では,三つの記事が,AIDS 流行の最初の 20 年を取り上げている.まず Sepkowitz は,生物医学研究界の顕著な達成について議論している.5 例のカリニ肺炎患者を報告した Gottlieb は,その後の出来事に対する個人的見解を示している.最後に,WHO の AIDS グローバルプログラムの前ディレクターである Merson は,AIDS ワクチン開発努力の失敗に関する単行本をレビューしながら,この世界規模の流行病に対する彼自身の見通しを示している.

      • 医学の進歩:血友病
        Medical Progress: The Hemophilias

        医学の進歩:血友病

        もっとも頻度が高い血友病である,血友病 A(第 VIII 因子欠損が原因)と血友病 B(第 IX 因子欠損が原因)については,1994 年の本誌に総説がある.それ以来,より安全な血漿製剤の普及や,第 VIII 因子や第 IX 因子の抗体価が高い患者に対する新しい治療や,遺伝子組み換えによる第 VIII 因子と第 IX 因子により,すばらしい進歩があった.遺伝子治療によって血友病を治癒させる可能性の兆しがみえてきた.こうした注目すべき技術的進歩にもかかわらず,世界の血友病患者の約 80%が,なんらの治療も受けることなく死亡している.