私はNEJM創刊200周年記念エッセーコンテストの入賞者の一人として、6月22日にボストンで行われたDialogues in Medicine ; Physicians and Patients on 200 Years of Progress と題された特別シンポジウムに参加致しました。当シンポジウムは、HIV/AIDS、Maternal & Fetal Health、Breast Cancer、Cardiologyの4つのテーマについて扱われた格好ではあるものの、各パネルごとに関連事項が幅広く多角的に論じられていたことから、シンポジウム名にふさわしく、200年間医学は患者とともにどのように歩んできて、今どのような課題があり、そしてどのように進展していくべきかについての新鮮な洞察を可能にする、大変貴重な機会であったと思います。なお、この私の認識は、帰国して後にNEJMによりアップロードされた当日の録画映像でシンポジウムの内容を冷静に振返ってみて改めて得たものでして、当日に関しては、輝かしき夢の舞台に居合わせることのできた歓びと興奮を世界中から集まった入賞者たちと分かり合ったり、NEJMのエディターたちに話しかけて色々と意見を伺ったり一緒に写真を撮らせて頂いたりすることの方に主に気が取られがちであったことをここで申し添えておきます。それはさておき、ぜひともより多くの医学生や医療関係者の方々にも、このNEJM創刊200周年記念シンポジウムの内容を一度webで振り返って頂き、日々の臨床医学の学習、研究及び実践に豊かなコンテクストを見いだす契機として頂けると素晴らしいなと愚考致しております。以下では、まだご覧になっていない方々を誘いたいとの思いから、微力な一医学生の私ではありますが、当シンポジウムの回顧を通じて得た感想をご参考までにいくつか述べさせて頂きます。
1番左が水谷さん
各パネルは、そのテーマに関わる200年間の歩みを振り返るoverview、各パネリストによるコメント、そして聴衆との若干の質疑応答の三つから構成されています。最初のoverviewは耳で聞くもう一つの200th anniversary articleともいうべきもので、そのテーマの追究に生涯を捧げてきたリーダーの肉声に乗って200年前から現在までの進展を約20分足らずで颯爽と駆け抜けます。これら4つのoverviewが、既に200th anniversary articleとしてNEJMに掲載発表されている緒論文と相当に連動していることは刮目に値すると思います。Braunwald氏によるA Tale of Coronary Artery Disease and Myocardial Infarction(2012; 366:54-63)と同氏によるCardiology overview、及びFauci氏によるThe Perpetual Challenge of Infectious Diseases (2012; 366:454-461)と同氏によるHIV/AIDSパネルのoverviewという明瞭な例だけでなく、What We Don't See (2012; 366:1328-1334)とMaternal & Fetal Health overview、 Hundred Years of Cancer Research(2012; 366:2207-2214) とBreast cancer overviewもまた互いに補完しあうべき関係にある発表と位置づけることができます。
引き続く各パネリストによるコメントでは、司会により若干の程度の差があるとはいえ、医学研究サイクルの3D (Discovery, Development, Delivery)の各フェーズについてパネリストたちが各々見解を述べるという形でまず進行し、今後の展望についての意見の交換が最後に行われます。加えて、Maternal & Fetal Health 以外においては実際に患者経験を持つ識者もパネリストに入っており、患者から始まり患者との恊働のもと進展していく臨床医学の姿が実例をもって深く印象付けられます。各パネリストによるコメントでは生物医学的基礎研究からGlobal Healthまで幅広く取り扱われており、その要約を皆様にお伝えすることは私には到底できないほどの多面性を兼ね備えています。ここでは、各識者たちの見解もまた、今年のNEJM紙面記事との関連性が陰に陽に相当あるようだということをお伝えするに留めさせて頂きます。AIDS/HIVのパネリストのお一人であったFarmer氏によるAIDS対策のコメントの中に、AIDS治療をハイチにおいて遂行していくにあたって現地におけるTBの深刻な蔓延の問題にまず遭遇したことが言及されておりましたが、その後同氏により発表された論文Tuberculosis, Drug Resistance, and the History of Modern Medicine (2012; 367:931-936)でTB対策の問題は洞察されることになります。これはあくまでほんの一例に過ぎず、今後発表される緒論文を介しても新たな関連性を色々と見い出していくことができるでしょう。
このようにシンポジウムで取り上げられた論点を整理していくことは、私にとって依然として愉しくも大きな課題であり、NEJMの続刊の購読を待ち遠しく思う駆動力の一つとなっております。ぜひ皆様方にも、本年度の紙面論文と関連深いこのシンポジウムの記録を臨床医学に新たなコンテクストを見いだす一助としてご活用されるよう切に願う次第です。