医学研究の成果を
社会実装するための
ヒントが得られる雑誌
ー 現在のお仕事についてお教えください。
2020年4月に国立循環器病研究センターの病院長に就任しました。それまでは九州大学で、脳神経外科教授として教室の運営に携わるとともに、九州大学病院で病院長補佐として医療機器安全管理を担当していました。今はナショナルセンターの病院長として、「世界に冠たるエクセレント・ホスピタル」を病院の目標に掲げています。私が病院長に着任しましたのは、大阪府から新型コロナウイルス感染症の病床確保要請の会議に緊急招集された日でした。病院長就任の初日から、大阪府の中での、地域の中での役割について考えさせられる日々が続いています。
ー NEJM Catalyst Innovations in Care Delivery(NEJM Catalyst)に興味をもった理由を教えてください。
私たち臨床医は日々とても忙しいわけですが、いかに現場の負担を抑えながら循環器病の医療の質を向上させていくかを常に念頭において働いています。その中で、NEJM CatalystにはPatient CareやPatient-Centered Outcomesといった、患者を中心に考えた医療の質、そのための社会的なイノベーションや実装について、総論的な、内容の優れた記事が多く載っていると感じました。患者にとっての医療の価値という概念について日本ではまだ十分に認識されていませんが、欧米では非常に注目されています。
また、これまで私は脳卒中や脳神経の領域に取り組んできましたが、脳卒中・循環器病対策基本法が成立、施行されたこともあり、推進基本計画を実施していく上で、どのようなエビデンスを出していくのか、それに基づいてどのように社会実装していくか、ということをずっと考えています。その中でNEJM Catalystは示唆に富む記事が多く、最新の知見を取り入れながら研究を進めてエビデンスを出し、社会に実装するというところで大変役に立つ雑誌だと思っています。
ー どういった記事に着目していますか。
最新のデジタル技術を医療に活用した事例に注目しています。近年、医師の負担は非常に増えています。また、新型コロナウイルスの流行による医療崩壊も懸念されています。医療から介護まで、マンパワーだけで対応するのではなく、e-Health、モバイルヘルスやデジタルヘルスといった、医療者のみならず、患者さん自身もデジタル機器をうまく活用して医療に参加し、健康リテラシーを高めていけるような仕組みが必要ではないかと考えています。そういった社会実装における科学はこれから発展していくものだと思うので、NEJM Catalystには読んでいて新しい発見があります。
ー NEJM Catalyst以外に同様の領域を扱う雑誌はありますか。
より対象を限定した専門的な雑誌は他にもあるかもしれません。ただ、医学においては他の専門領域まで全てをカバーするのは難しい。総論的に質の高い研究にフォーカスを当ててまとめているNEJM Catalystは、短時間で全体を俯瞰できるという意味で貴重な情報ソースです。