March 15, 2001 Vol. 344 No. 11
乳児における ABO 不適合の心臓移植
ABO-Incompatible Heart Transplantation in Infants
L.J. WEST AND OTHERS
ABO 不適合のドナーからの心臓の移植は,レシピエントに先行形成されているドナー血液型抗原に対する抗体による超急性拒絶反応のリスクがあるために,禁忌となっている.しかし,主要血液型抗原などの T 細胞非依存性抗原に対する抗体をまだ産生し始めていない新生児には,この禁忌は当てはまらない可能性がある.
先天性心疾患あるいは心筋症の生後 4 時間~14 ヵ月(中央値,2 ヵ月)の乳児で,1996~2000 年の期間に血液型不適合ドナーからの心臓移植を受けた 10 例についての検討を行った.血清中の同種血球凝集素の抗体価を,移植の前後で測定した.血漿交換は心肺バイパス施行中に行った;これ以外の抗体除去手技は使用しなかった.標準的な免疫抑制療法を実施し,心内膜心筋生検にて拒絶反応の監視を行った.これらの乳児の成績を,ABO 適合ドナーからの心臓移植を受けた 10 例と比較した.
ABO 不適合ドナーから心臓を提供された 10 例のレシピエントの全生存率は,2 例が ABO 不適合には無関係と考えられた原因によって早期に死亡したため,80%であった.追跡調査期間は 11 ヵ月~4.6 年間であった.2 例で,移植前にドナー血液型抗原に対する抗体が血清中に検出された.超急性拒絶反応をきたした例はなかったが,剖検にて,抗体を保有していた乳児のうち 1 例に軽度の液性拒絶反応が認められた.ABO 不適合に起因したと考えられる病態は観察されなかった.2 例に最終的にドナーの血液型抗原に対する抗体が発現したにもかかわらず,移植片の障害は認められなかった.ABO 不適合ドナーを用いることによって,待機リストに登録された乳児の死亡率が 58%から 7%に低下した.
ABO 不適合の心臓移植は,同種血球凝集素の産生が開始する前の乳児に対しては安全に実施することができる;この移植技術は,待機リストに登録された乳児の死亡率の著減に寄与する.