重症急性呼吸器症候群に関連する新型コロナウイルス
A Novel Coronavirus Associated with Severe Acute Respiratory Syndrome
T.G. Ksiazek and Others
重症急性呼吸器症候群(SARS)の世界的集団発生は,中国広東省で発病した 1 人の医療従事者への曝露と関連している.われわれは,この集団発生の病因を同定する研究を行った.
7 ヵ国の患者から臨床検体を入手し,ウイルス分離法,電子顕微鏡検査,組織学的検査,分子生物学的・血清学的検査を行い,可能性のある広範囲の病原体の同定を試みた.
すでに解明されている呼吸器系病原体は同定されなかった.一方,新種のコロナウイルスが SARS の症例定義を満たす患者から分離された.咽頭スワブを接種したベロ E6 細胞中に,細胞病理学的な特徴が認められた.電子顕微鏡検査で,コロナウイルスに特有の超微細構造上の特徴が明らかになった.免疫組織化学染色法と免疫蛍光染色法により,1 型コロナウイルスのポリクローナル抗体と反応することが明らかになった.遺伝子断片の増幅を目的として設計されたコロナウイルスの共通配列に対するプライマーを用いて,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行い,1 つの配列を得た.この配列から,今回単離されたコロナウイルスは,すでに配列決定されているコロナウイルスとの関連があまり認められない,異なるウイルスであることが明らかにされた.特異的診断用 RT-PCR プライマーを用いて,複数地域の 12 例の患者で同一のヌクレオチド配列をいくつか同定した.この知見は単一起源の集団発生に合致する.この新種の分離株を用いた間接蛍光抗体法および酵素免疫測定法(ELISA 法)が,特異的血清学的反応を明らかにするため利用されている.このウイルスは,かつて米国人のあいだで流行したことはなかったと考えられる.
新種のコロナウイルスがこの集団発生に関連しており,今回の知見は,このウイルスが SARS の原因になっていることを示している.カルロ・ウルバーニ医師が死亡したため,はじめて分離されたこの菌株に SARS 関連コロナウイルスのウルバーニ株(Urbani strain)と命名することを提案する.
(本論文は 2003 年 4 月 10 日 www.nejm.org に)発表された.