February 12, 2004 Vol. 350 No. 7
血漿中のナトリウム利尿ペプチド濃度と心血管イベントおよび死亡のリスク
Plasma Natriuretic Peptide Levels and the Risk of Cardiovascular Events and Death
T.J. Wang and Others
ナトリウム利尿ペプチドは,体液のホメオスタシスと心血管リモデリングに関与する逆調節ホルモン(counterregulatory hormones)である.見かけは無症状の人において,血漿中のナトリウム利尿ペプチド濃度が予後予測に及ぼす意義は証明されていない.
心不全を発症していない対象者 3,346 例を前向きに検討した.比例ハザード回帰を用いて,血漿中の B 型ナトリウム利尿ペプチドおよび N 末端前心房性ナトリウム利尿ペプチドと,全死因による死亡,最初の重大な心血管イベント,心不全,心房細動,脳卒中または一過性虚血発作,冠動脈心疾患のそれぞれのリスクとの関係を検討した.
平均 5.2 年の追跡期間中に 119 例が死亡し,79 例が初回心血管イベントを発現した.心血管危険因子で補正後,B 型ナトリウム利尿ペプチド濃度の対数値の標準偏差(SD)が 1 増加するごとに,死亡リスクが 27%(P=0.009),初回心血管イベントリスクが 28%(P=0.03),心不全のリスクが 77%(P<0.001),心房細動のリスクが 66%(P<0.001),脳卒中または一過性虚血発作のリスクが 53%(P=0.002)増加した.ペプチド濃度は,冠動脈心疾患イベントのリスクとは有意に関連していなかった.80 パーセンタイルを超える B 型ナトリウム利尿ペプチド濃度(男性 20.0 pg/mL,女性 23.3 pg/mL)と関連する多変量補正ハザード比は,死亡が 1.62(P=0.02),最初の重大な心血管イベントが 1.76(P=0.03),心房細動が 1.91(P=0.02),脳卒中または一過性虚血発作が 1.99(P=0.02),心不全が 3.07(P=0.002)であった.N 末端前心房性ナトリウム利尿ペプチドでも同様の結果が得られた.
この地域ベースの集団において,血漿中のナトリウム利尿ペプチド濃度は,従来の危険因子で補正後,死亡と心血管イベントのリスクを予測した.ナトリウム利尿ペプチド濃度が心不全の診断に用いられている現行の基準値を大幅に下回る場合にも,リスクの増加は明らかであった.