October 7, 2010 Vol. 363 No. 15
QT 延長症候群の患者特異的人工多能性幹細胞モデル
Patient-Specific Induced Pluripotent Stem-Cell Models for Long-QT Syndrome
A. Moretti and Others
QT 延長症候群は遺伝性疾患で,心電図上の QT 間隔の延長と,心室性頻脈性不整脈による心臓突然死の高いリスクに関連している.QT 延長症候群 1 型では,遅延整流カリウム電流(IKs)を仲介する再分極カリウムチャネルをコードする KCNQ1 遺伝子に変異が生じる.
QT 延長症候群 1 型に罹患している 1 家族をスクリーニングし,KCNQ1 遺伝子の常染色体優性ミスセンス変異(R190Q)を同定した.この家族の構成員 2 例と健常対照 2 例から皮膚線維芽細胞を採取し,ヒト転写因子 OCT3/4,SOX2,KLF4,c-MYC をコードするレトロウイルスベクターに感染させ,多能性幹細胞を作製した.特定のプロトコールを用いて,これらの細胞を心筋細胞へ分化誘導した.
人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は,QT 延長症候群 1 型の疾患遺伝子型を維持し機能的心筋細胞を産生した.細胞はそれぞれ,細胞型特異的マーカーの発現と単一細胞の活動電位記録から,「心室」,「心房」,「結節」の表現型を示すことが認められた.活動電位の持続時間には,QT 延長症候群 1 型患者由来の「心室」細胞と「心房」細胞で,対照由来の細胞と比べて顕著な延長がみられた.QT 延長症候群 1 型の発生機序における,R190Q-KCNQ1 変異の役割の特徴を詳細に明らかにすることによって,優性阻害型(dominant negative)細胞内輸送障害が IKs 電流の 70~80%減少と関連し,チャネルの活性/不活性特性を変化させることが明らかになった.また,QT 延長症候群 1 型患者由来の心筋細胞はカテコールアミン誘発頻脈性不整脈に対する感受性が高いこと,そしてこの表現型はβ遮断薬により減弱されることが示された.
QT 延長症候群 1 型に罹患している 1 家族の構成員に由来する患者特異的多能性幹細胞を作製し,機能的心筋細胞への分化を誘導した.患者由来細胞において,この疾患の電気生理学的特性が再現された.(European Research Council ほかから研究助成を受けた)