多領域の塩基配列決定によって明らかになった腫瘍内不均一性と分岐進化
Intratumor Heterogeneity and Branched Evolution Revealed by Multiregion Sequencing
M. Gerlinger and Others
腫瘍内不均一性は,腫瘍の進化と適応を助長する可能性があり,単一の腫瘍生検検体の解析結果に依存するオーダーメイド医療戦略を妨げるおそれがある.
腫瘍内不均一性を検討するために,原発性腎癌およびその転移部位から採取した,空間的に離れた複数の検体を用いて,エクソーム塩基配列決定,染色体異常解析,倍数性プロファイリングを行った.免疫組織化学的解析,変異の機能解析,メッセンジャー RNA 発現プロファイリングを用いて,腫瘍内不均一性がもたらす影響を明らかにした.
系統発生的再構築によって,分岐進化的な腫瘍増殖が明らかとなり,体細胞変異の 63~69%は,すべての腫瘍領域では検出されなかった.腫瘍内不均一性は,哺乳類ラパマイシン標的蛋白(mTOR)キナーゼの自己阻害ドメイン内の変異に認められ,in vivo では S6 と 4EBP のリン酸化に関連し,in vitro では mTOR キナーゼ活性の構成的活性化に関連していた.変異の腫瘍内不均一性は,機能喪失に収束する複数の腫瘍抑制遺伝子に認められた.SETD2,PTEN,KDM5C は,単一の腫瘍内で空間的に離れた複数の異なる不活性化変異を起こしており,収束的表現型の進化が示唆された.予後良好と予後不良の遺伝子発現シグネチャーが,同一腫瘍の異なる領域で検出された.アレル組成と倍数性のプロファイリング解析によって,腫瘍 4 個から得た腫瘍検体 30 検体中 26 検体に分岐したアレル不均衡プロファイルがみられ,腫瘍 4 個中 2 個に倍数性の不均一性が認められ,広範な腫瘍内不均一性が明らかとなった.
腫瘍内不均一性は,単一の腫瘍生検検体から描かれる腫瘍ゲノミクスの全体像の過小評価をもたらす可能性があり,オーダーメイド医療とバイオマーカーの開発に大きな課題を呈すると考えられる.腫瘍内不均一性は,不均一な蛋白機能とともに,腫瘍の適応と,ダーウィン淘汰による治療失敗を助長する可能性がある.(医学研究評議会ほかから研究助成を受けた.)