米国における認知症の金銭的コスト
Monetary Costs of Dementia in the United States
M.D. Hurd and Others
米国では,多数の高齢者が認知症になり,その数は増え続けている.認知症に起因する金銭的コストも同様に大きいとみられ,増加し続ける可能性が高い.
全米の高齢者の代表的サンプルを対象とした縦断的研究である,健康と退職に関する研究(Health and Retirement Study:HRS)集団の副標本(856 人)を用いて,自宅で 3~4 時間かけて行う認知評価と,専門委員会の審査により,認知症の診断を決定した.続いて,HRS 回答者全員について入手しえた認知状態,機能状態の指標に基づき,認知状態を HRS 標本全体(10,903 人,31,936 人年)に外挿し,大きな標本の中で認知症の確率が高い人を同定した.認知症者のケアに関連する市場コストは,自己申告による自己負担費用と介護施設でのケアの利用に基づき決定した.メディケア請求データを用いて,メディケアが負担したコストを同定した.非公式の(無給)ケアに費やされた時間は,同等の公式の(有給)ケアのコストとして評価するか,非公式な介護者が受け取らなかった推定賃金として評価した.
2010 年の米国の 70 歳超の高齢者における認知症の推定有病率は 14.7%であった.認知症に起因する 1 人あたりの年間金銭的コストは,非公式なケアの評価に用いた方法によって異なり,56,290 ドル(95%信頼区間 [CI] 42,746~69,834 ドル)と,41,689 ドル(95% CI 31,017~52,362 ドル)と算出された.これらのコストからみて,2010 年の認知症の金銭的コストは,総額で 1,570 億ドルから 2,150 億ドルであったことが示唆される.このコストのうち,約 110 億ドルをメディケアが負担した.
認知症は社会にとって大きな経済的負担となり,その規模は心疾患や癌と同様の経済的負担である.(米国国立老化研究所から研究助成を受けた.)