September 3, 2015 Vol. 373 No. 10
ヒトにおける FTO 肥満遺伝子多様体経路と脂肪細胞の褐色化
FTO Obesity Variant Circuitry and Adipocyte Browning in Humans
M. Claussnitzer and Others
ゲノムワイド関連解析は,疾患に関連するゲノム領域の同定に使用できるが,データの解釈が困難である.FTO 領域は肥満ともっとも強く関連することが示されているが,その基本的機序はまだほとんどわかっていない.
FTO 領域と肥満の関連について,その調節経路と基本的機序を詳しく調査するために,エピゲノムデータ,アレルの活性,モチーフの保存,調節因子の発現,遺伝子共発現パターンを調査した.それに基づき遺伝子多様体が作用する可能性のある細胞の種類を予測し,患者とマウスから採取したサンプルに対して直接的摂動実験を行い,患者から採取したサンプルに対して CRISPR–Cas9 による内在性遺伝子のゲノム編集を行って,予測を検証した.
今回のデータから,肥満に関連する FTO 遺伝子アレルは,前駆脂肪細胞におけるミトコンドリア熱産生を組織自律的に抑制することが示された.FTO の多様体 rs1421085 の T から C への一塩基多様体は ARID5B 抑制因子の保存されたモチーフを破壊するため,前駆脂肪細胞の強力なエンハンサーの抑制が解除され,脂肪細胞分化早期の IRX3 と IRX5 の発現が倍増する.その結果,細胞自律的な発生はエネルギーを散逸するベージュ(ブライト)脂肪細胞からエネルギーを蓄積する白色脂肪細胞へと移行し,ミトコンドリア熱産生が 1/5 に減少し,脂質の蓄積が増加する.マウスの脂肪組織で Irx3 を阻害すると,身体活動や食欲の変化を伴わずに,体重が減少し,エネルギー散逸が増大した.リスクアレル保有者の初代脂肪細胞で IRX3 または IRX5 をノックダウンさせると,熱産生が回復して 7 倍に増加し,リスクアレル非保有者の脂肪細胞でこれらの遺伝子を過剰発現させると逆の作用がみられた.リスクアレル保有者の初代脂肪細胞の rs1421085 の ARID5B モチーフを CRISPR–Cas9 により編集して修復すると,IRX3 と IRX5 の抑制が回復し,褐色化発現プログラムが活性化し,熱産生が回復し 7 倍に増加した.
今回の結果から,ARID5B,rs1421085,IRX3,IRX5 が関与する脂肪細胞の熱産生調節の経路の存在が示され,遺伝子操作によって顕著な肥満促進作用,抗肥満作用がみられた.(ドイツ環境健康研究センターほかから研究助成を受けた.)