軍人の脳における慢性外傷性脳症
Chronic Traumatic Encephalopathy in the Brains of Military Personnel
D.S. Priemer and Others
戦闘に曝露された軍人は,持続性の神経精神医学的後遺症を生じる可能性がある.そのような後遺症は,一部の症例では慢性外傷性脳症(CTE)が原因とされてきた.軍人の脳における CTE に関するデータは限られている.
死亡した軍人に関する研究用のブレインバンクから連続して収集した 225 例の脳標本において,CTE の存在を神経病理学的に検討した.さらに,死亡者の爆風への曝露歴,コンタクトスポーツ歴,その他の種類の外傷性脳損傷(TBI)の既往,神経精神疾患の既往に関する情報を後ろ向きに収集し,検討した.
CTE の神経病理学的所見は,検討した脳標本 225 例中 10 例(4.4%)に認められ,その半数では,特徴的な病変は 1 つしか認められなかった.爆風への曝露歴のある死亡者では,脳標本 45 例中 3 例に CTE が認められたのに対し,爆風への曝露歴のない死亡者では,180 例中 7 例に認められた(相対リスク 1.71,95%信頼区間 [CI] 0.46~6.37).兵役中の,爆風への曝露を伴わない頭部への物体直撃による TBI(兵役中の衝撃 TBI)の既往を有する死亡者では,脳標本 21 例中 3 例に CTE が認められたのに対し,そのような既往を有しない死亡者では,204 例中 7 例に認められた(相対リスク 4.16,95% CI 1.16~14.91).CTE が認められた脳はすべて,コンタクトスポーツ歴のある死亡者のものであり,コンタクトスポーツ歴のある 60 例では 10 例に CTE が認められたのに対し,コンタクトスポーツ歴のない 165 例では認められなかった(相対リスクの点推定値は算出不可能,95% CI 6.16~無限大).市民生活のなかでのスポーツに関連しない TBI の既往を有する死亡者では,脳標本 44 例中 8 例に CTE が認められたのに対し,そのような既往を有しない死亡者では,181 例中 2 例に認められた(相対リスク 16.45,95% CI 3.62~74.79).
軍人の脳の一連の標本で CTE の所見が認められる頻度は低く,認められる場合も,多くは最小の神経病理学的変化であった.CTE のリスク比は,コンタクトスポーツ歴やその他の市民生活のなかでの TBI の既往を有する死亡者のほうが,爆風への曝露歴やその他の兵役中の衝撃 TBI の既往を有する死亡者よりも数値上高かったが,CTE の症例数が少なく,信頼区間の幅が広かったことから,因果関係について結論付けることはできない.(米国国防総省–米国軍保健科学大学の脳組織リポジトリおよび神経病理学プログラム,軍事医学の進歩のためのヘンリー・M・ジャクソン財団から研究助成を受けた.)