February 24, 2022 Vol. 386 No. 8
非共有結合型ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬に対する耐性機序
Mechanisms of Resistance to Noncovalent Bruton’s Tyrosine Kinase Inhibitors
E. Wang and Others
共有結合型(不可逆的)ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬は,さまざまな B 細胞癌,とくに慢性リンパ性白血病(CLL)の治療を変えた.しかし,さまざまな機序によって耐性が生じる可能性があり,たとえば,BTK における共有結合型 BTK 阻害薬の結合部位である,残基 C481 の変異獲得がある.非共有結合型(可逆的)BTK 阻害薬は,この機序や,その他の耐性の原因を克服しているが,これらの治療に対する耐性獲得機序は,現在十分に解明されていない.
非共有結合型 BTK 阻害薬ピルトブルチニブ(pirtobrutinib)による治療を受けた CLL 患者の,治療前の検体と,病勢進行時に採取した検体のゲノム解析を行った.非共有結合型BTK 阻害薬に対する耐性を付与する変異を検討するため,構造モデリング,BTK 結合アッセイ,細胞アッセイを行った.
治療を受けた 55 例のうち,再発または難治性の CLL で,ピルトブルチニブに対する遺伝的耐性機序を獲得した 9 例を同定した.BTK のキナーゼ領域にクラスターを形成し,非共有結合型 BTK 阻害薬と特定の共有結合型 BTK 阻害薬の両方に対する耐性を付与する変異(V416L,A428D,M437R,T474I,L528W)を発見した.BTK,または BTK のシグナル伝達分子および下流基質であるホスホリパーゼ Cγ2(PLCγ2)の変異が 9 例すべてで発見された.B 細胞受容体シグナル伝達を反映する転写活性化は,非共有結合型 BTK 阻害薬による治療を継続しても持続した.
非共有結合型 BTK 阻害薬に対する耐性は,標的とする BTK の変異と BTK 阻害からの逃避を可能にする下流の PLCγ2 の変異を介して生じた.これらの変異の一部は,臨床的に承認されている共有結合型 BTK 阻害薬にも耐性を付与した.今回のデータによって,確立された共有結合型 BTK 阻害薬,新規の非共有結合型 BTK 阻害薬からのゲノムエスケープの,新たな機序が示唆された.(米国血液学会ほかから研究助成を受けた.)