肺機能予測式における人種による調整の意義
Implications of Race Adjustment in Lung-Function Equations
J.A. Diao and Others
肺機能検査では人種による調整はしないようにと宣言されているが,人種によらない予測式を用いることの意義について,包括的な定量的評価はなされていない.
全米健康栄養調査(NHANES),UK バイオバンク,アテローム性動脈硬化症の多民族研究(MESA),米国臓器調達移植ネットワーク(OPTN)の参加者計 369,077 人の縦断データを入手した.このデータを用いて,人種に基づく 2012 年世界肺機能イニシアチブ(GLI-2012)予測式と,2022 年に導入された人種によらない GLI-Global 予測式とを比較した.評価する転帰は,臨床,職業,財政の再分類に関する米国全体での予測,移植の優先順位を示す個々の患者の肺分配スコア,臨床転帰の予測に関する C 統計量などとした.
質の高いスパイロメトリーの結果を得ることができる 6~79 歳の米国人 2 億 4,900 万人では,GLI-Global 予測式を用いると,1,250 万人の肺機能障害,816 万人の医学的障害の評価,228 万人の職業適性,205 万人の慢性閉塞性肺疾患の病期,413,000 人の軍人障害補償が再分類される可能性があることが示された.その変化の程度は人種により異なり,たとえば非閉塞性肺機能障害の分類は,黒人では 141%(95%信頼区間 [CI] 113~169)増加,白人では 69%(95% CI 63~74)減少と,劇的に変化する可能性がある.退役軍人障害年金の年間支払額は,黒人では 10 億ドル超増加し,白人では 5 億ドル減少する可能性がある.GLI-2012 予測式を用いた場合と GLI-Global 予測式を用いた場合とで,呼吸器症状,医療利用,疾患の新規発症,全死因死亡,呼吸器疾患関連死,移植待機リスト登録者の死亡に関する識別精度は同程度であり,C 統計量の差は -0.008~0.011 であった.
人種に基づく予測式と人種によらない予測式とで,呼吸器転帰の予測精度は同程度であったが,何百万もの人々が異なる疾患分類,職業適性,障害補償に割り当てられ,その影響は人種により異なった.(米国国立心臓・肺・血液研究所,米国国立環境健康科学研究所から研究助成を受けた.)