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(水)

第3回 The New England Journal of Medicine 論文著者に聞く NEJMへの投稿・掲載のリアル ―臨床研究を成功に導く生物統計学―

エディターとの関係性

NEJMのエディターとは投稿前からコミュニケーションを始めていました。研究結果はまだ言えないが興味深い結果が出ていて、positiveでもnegativeでもどちらでも世界初のRCTの結果報告になり、研究の質は私が保証すると伝えました。エディターが興味を持っている感触は得ました。

NEJMはpractice changeにつながる論文を採用します。これは僕が留学していたときに、NEJMのエディターから直接伺いました。NEJMは後で誤りだった、と分かることになる論文は絶対に出したくない。つまり感度(=掲載論文/載せるべき論文)は最低でもよく、逆に特異度(=却下論文/載せるべきではない論文)をとことん上げたい、と言っていました。ですので、担当エディターによる却下の裁量がとてつもなく大きいのです。掲載は極めて慎重に判断されるけれども、却下は一人の担当エディターの判断で簡単にできます。そのため、最初に担当してくれるdeputy editorやassociate editorの受けや関係性が最重要です。

論文投稿と掲載

12月6日にNEJMへ投稿し、元旦の朝7時にrevisionの知らせが来ました。10日に再投稿し、17日にacceptされました。ここからも様々なやりとりがありましたが、オンライン版にISC発表当日の2月9日に、冊子体に4月7日に掲載されました。

ありがたいことに、そのときのtop articleということで、紹介動画も作ってくれました。発表後は、たくさんのletter(correspondence)が来ました。ほとんどは担当エディターがrejectしていましたが、ひとつだけ出版するから回答せよと、来ました。どうも次に出てくる同じような研究のための伏線だと思われました。

まとめ

「臨床研究を成功に導く生物統計学」というのが今回のウェビナーのテーマでした。個人的な感想ですが、そのようなものはありません。統計が良くても臨床研究は成功しないし、良くない臨床研究を統計が助けることはできないと思っています。

臨床と研究と統計を分けて考える、それぞれ別々に実施することは仕方がないことですが、それらを繋ぎ合わせることは簡単ではありません。それぞれの部分は質が高くても、繋ぎ目がきれいに統合されなければ、全体として高く評価されないでしょう。きれいに統合をさせる必要があると思っています。また、総合誌(NEJM、JAMA)にはエディターが求める論文の観点なり構成なり記述の仕方がありますから、それに慣れる必要もあると思います。

ひょっとして生物統計学の技術が必要なのは、特に投稿時とrevisionの時ではないかと、今回スライドを整理して考えました。スムーズに投稿し、スムーズにdecision letterに対応できるのは、臨床知識や経験の上に、統計学の素養があるからかもしれません。また、論文投稿やresponse letterを作成するときに、独りよりも先ほど述べた合宿みたいな形で、臨床医と統計担当者と協働するのがよいように思います。

対談・参加者からのQ&A

イベント中の夏秋先生の写真
夏秋 先生
夏秋

先ほど少し紹介させていただきましたけれども、私も森本先生に10年以上ご指導いただいています。本日は「NEJMへの投稿・掲載のリアル」というタイトルで、私もNEJMの投稿経験はありますが、残念ながら採択には至っておりません。自分も含めて、今日は視聴者の皆さんと先生のご経験を共有して、ぜひ採択への手がかりを見つけたいなと思っています。

トップジャーナルに採択されるためには、当然質の高い論文を作成する必要があるわけですし、デザインや研究計画も綿密に組んでいます。それから、やはり統計の先生との連携が大事だというところがありました。あとは、practiceを変えるような新たな知見を最終的には持っていることが大事なのかなと感じました。

また、森本先生は臨床に即したところを大事にされており、実際の臨床現場でその研究の内容が活かせなければ、せっかく出した論文も意味がなくなってしまいます。それを貫かれた結果が、今回のNEJMの採択に至ったのかなと、全体を通して思いました。まずは私から幾つか質問をさせていただきたいと思います。

統計と総合診療の繋がり

夏秋

先生は統計家ですが、もともと総合診療医として臨床をしておられます。統計の専門家も臨床の専門医もいますが、その両方をバランスよく高いレベルで備えられているのは、私は森本先生以外存じ上げません。そういった統計家の先生はやはり多くはないものだと思うのですけれども、いかがでしょうか。

森本

僕だけだとはまったく思っていません。ただ、統計は勉強したけど現場で協働する機会が少ないとか、逆にいっぱい研究しているけど統計の勉強ができていないとか、そういうミスマッチはどこにでも存在しているように思います。そのようなミスマッチを減らせれば、僕みたいな人はいっぱい世の中に出てくるのではないかと期待しています。

夏秋

森本先生は感染症や救急の論文にも携わっておられます。それはやはり総合診療の臨床経験がベースにあるのでしょうか。

森本

それははっきり感じます。救急の経験があり、プライマリケアでも目の疾患を診たり、膝の疾患を診たりする経験があるのでイメージがつきやすいです。統計解析をするときに、変数やデータを数字としてのみ捉えることはほとんどしません。もちろん日常的に統計解析はしますが、つねに臨床的な解釈をしながら解析をするんです。論文を書くときもそうです。できるだけ俯瞰的な視点から、今やっている解析がどう論文化されて、どう患者さんのところに還元されるのかをイメージしながら作業します。それを習慣化しているので、おそらく無駄な作業を減らすことができ、比較的短時間で多くのことができるのだろうと思っています。

夏秋

視聴者からQ&Aが来ておりますので、ご紹介したいと思います。