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(水)

第3回 The New England Journal of Medicine 論文著者に聞く NEJMへの投稿・掲載のリアル ―臨床研究を成功に導く生物統計学―

投稿先のエディターとの関係性

夏秋

NEJMのエディターに関して似た質問が2つ来ています。「エディターとの関係性で重要なこと、気にかけていたことはどんなことですか」という質問と、「エディターとの関係がとても重要だと伺いましたが、採択された多くの著者はすでにそのような関係があるのでしょうか。エディターとの関係がない人間は、内容のみで勝負する形になりますでしょうか」という質問です、いかがでしょうか。

森本

結論から言うと、エディターと一定のコミュニケーションができると、少しは楽です。ただし関係性がないから却下するということはしないはずなので、良い論文なら問題ないと思います。

夏秋

次の質問です。「NEJMやLancetやJAMAになるとかなりの数のreviseの要求があると思うのですが、今回の論文の査読に関してreviseの要求はどのぐらいありましたか」という査読に関するご質問が来ております。

森本

査読者が何人かいたのは間違いないですが、正確な数は覚えていません。reviseの項目数も覚えていませんが、response letterは本文との重複含めて64ページほどでした。多いようですがたいしたことはなくて、淡々と指摘事項を直す、もしくは反駁するという作業になります。

投稿先の雑誌を知る

夏秋

次に論文の投稿先に関する質問です。「論文投稿において、投稿誌をどのように選んでいらっしゃるか、教えていただけますでしょうか」というご質問です。

森本

難しいですね。今回はPIの先生方がNEJMに出したいと言うから出しただけの話で、私はどちらかというと統計解析責任者みたいなかたちで入っていました。いろんな研究者にアドバイスする立場や観点からすると、幅広い患者さんに対して、プライマリケア医とかジェネラリストがこの人を治療する/しない、検査する/しない、といった大きな判断に影響するようなことは総合誌だと思います。一方で治療法の細かな違いであるとか、interventionの細かい手技に関する内容だったら専門誌が良いだろう、というのが一般的なルールでしょう。

また、全くどこに出していいかわからない場合は、PubMedなどに自分の論文で使っているキーワードを放り込んでみて、多くヒットするジャーナルというのが一般的な原則ですかね。必ずしも毎回大振りしなくてもいいと思っています。

夏秋

NEJMを読むことに関連した質問です。「学生・研修医のときにNEJMは購読されていましたか。いつから読んでおくべきでしょうか」。先生は若いころから外国の医学雑誌をよく読んでおられたのでしょうか。

森本

たまたま研修医の1年目からアメリカ人の先生が指導医になってくれる病院だったので、常時病棟に外国人の先生がいて、NEJMとかJAMAといったトップジャーナルがずっと身近に置いてありました。もともと読む習慣になっていたのは確かにあります。補足すると全部読むわけじゃなくて、目次を読んで、自分に関係あるところと関係ないところを仕分ける。関係がないところはタイトルだけ読むし、関係ありそうなところはしっかり読む、そういう読み方を身に付け、今も習慣にしています。

統計の勉強

夏秋

大きな問いでちょっと難しいかもしれませんが、「統計はどのように勉強すればよいでしょうか」という質問がきています。先生のような統計家の先生につければ良いのでしょうけれども、どのように勉強していくのが良いのでしょうか。

森本

統計関連の書籍やオンライン学習もありますが、僕はいろいろな場所でワークショップをしています。統計というのは、例えば夏秋先生にとってのカテーテル治療みたいなもの、つまり手技や技術なので、本を読んだり、ビデオを見たりしていても多分うまくならないと思います。逆に、単に経験数を増やすだけだといい加減なものになるので、誰かきちんとした人の元で一緒に勉強するというのが大事で、ワークショップはその一つです。留学もひとつの選択肢ですが。

知識があっても実践がなければ全然話にならないですし、実践があっても知識がなければ、また話にならないので、両方できる環境をつくるのが大事だと思っています。本に書いてあることでも、実際には使えないことは多くあります。論文に書いてあること、教科書に書いてあること、ビデオで見たことを実際に自分の研究でやってみたら、実はうまくいかないことが多い、ということを理解した上で勉強するのが良いと思います。

夏秋

今日は森本先生に統計の勉強の仕方からNEJMの裏話まで、大変勉強になるお話、有用なお話をたくさんいただきました。最後に先生からメッセージをいただけますでしょうか。

森本

今回お聞きの方はおそらく臨床経験がある、もしくは臨床医と繋がりがあって、これまで臨床研究をやってこられたり、またはこれから臨床研究をしたい人が多いのではないかと思います。いつもいろんなところで話していますが、僕は統計ファーストではないと考えています。今から研究をしようとしている対象となる患者さんについてしっかり観察したうえで、その行動や治療を数字に置き換える。そうして置き換えたものが、現場の患者さんの行動や治療とパラレルであるのが統計だと考えています。統計優先ではなくて、どうやって現場の患者さんや治療効果を数字で置き換えるか、ただ、置き換えながらもあくまで現場の雰囲気や動きから離れない、数字だけ独立させない、というイメージを普段から持っていると研究しやすいと思います。難しい話かもしれませんが、私はそう考えています。